第四話 ド・ド・ドリフト大爆走ッ!(一)
「すみませーん、エルフのお姉さん! こちらにも目線、いただけますかァ?」
「はいっ! こ、こうでしょうか……?」
「――はぁい、あざっす、どゥもー」
「あ、こっちもお願いしまっすゥー」
とある日曜日の午後。エルミヤさんは、
このイベントではコスプレイヤーの撮影会も併せて開催されており、参加者は思い思いのコスチュームを身にまといつつ、その姿を撮ったり撮られたりしているのである。
無論、俺自身はこんな催し物には一ミリも興味はないが、エルミヤさんが向かう先にはついていかないわけにはならないことはすでにご承知の通りだと思うので、あえてもう説明はしない。あー、クソいまいましい隷属の鎖め。
「エルミヤさん! ホントに素敵です、その
エルミヤさんの隣でポーズをとりながら、いつになく興奮気味な
それにしても、安売りスーパー「安か郎」の看板娘である女子高生バイトの
ゲームをプレイするだけでなく、そのゲームの
「
一方で、自分の前につぎつぎと現れてはシャッターを切り、そそくさと去っていくカメラ小僧たちの相手を続けているエルミヤさん。彼女も会場の熱気の中で、これまでに経験したことのない高揚感を感じているらしい。
あと、厳密に言うとエルミヤさんのは
「あ、あのゥ……できれば僕と一枚……」
「はい?」
「い、いえ、ど、どうもすみませんッ!」
撮影者の中には、エルミヤさんとツーショットで写真に納まりたいと願う者も少なくなかったが、すぐ傍にいる俺の顔を見ると、全員があわてて退散していった。
「いったいどうしたんでしょうか? みなさん、何か私にご用があるようなんですけど……」
「さあな」
金髪美少女のリアル魔法使いの真横に、剣と魔法のファンタジー世界とは縁もゆかりもない、身長百九十オーバーのゴリゴリ任侠男が突っ立っているのだ。逃げ出したくなる気持ちもわかる。
俺としても、もう少し離れたところからエルミヤさんを見守りたいのはやまやまだが、例の鎖が俺たちを三・五メートル以上離れさせてはくれないのだから仕方ない。
ちなみに俺も、ヤクザが街中を暴れ回るゲーム(どうやら本当にあるらしい!)のコスプレではなく、まぎれもない本職だ。
「お疲れさまです、エルミヤさん。これで一応、撮影タイムは終了ということで」
「あ、はい。わかりました
時刻は午後四時を回り、そろそろこのイベントもお開きのようだ。
「それで、この後はとくに予定とかはなくて
「いえ、今日のところは遠慮させてもらって、私はもうここで失礼します」
エルミヤさんは、俺の方に目をやりながら答えた。俺が退屈そうな顔をしているのを、気にしているのかもしれない。
「そうですか? 今日は本当にすみませんでした。なんだか無理矢理お呼びたてしちゃって……どうもありがとうございます」
「いえ、私の方こそ、とっても楽しかったです! また今度、いろんなコスプレ教えてくださいね!」
すると
「でも竜司さんって、エルミヤさんのためにわざわざこんなイベントにまで連れてきてくれるなんて、とっても優しいんですね」
「え? そ、そうですね……」
「私、お父さんがいないから、ああいう落ち着いてて頼りがいのある男の人って、すごくあこがれちゃいます」
「お父さん?」
その時、
「あ、ごめんなさいエルミヤさん。それじゃ私、ここで失礼します。竜司さんも、今日はありがとうございました!」
「ああ、またな
俺とエルミヤさんは、駐車場に停めていたシルバーのプリウスに乗り込むと、イベント会場をあとにした。会場の周辺には、大きな荷物を抱えた数多くの参加者たちが、そこかしこでたむろしているのが見えた。
「それにしても、人は見かけによらないというか、
定位置の助手席に座り込んだエルミヤさんは、手土産にもらったゲーム関係の小冊子やグッズを、興味深そうに見ていた。
「そうだな。あの娘は、寝る間も惜しんで
「ゲームっていうのは、そんなにおもしろいものなのでしょうか?」
「どうかな。俺は、ああいうモンにはまったく興味がねえからなあ」
「私は、ちょっとやってみたくなりました!」
エルミヤさんの場合、彼女の存在そのものがゲームみたいだと思うが。
「ところでリュージさまって、何かご趣味はあるんですか?」
「趣味? 俺のか?」
「はい」
「そう言えば………………………………………………ねえな」
俺は、テレビや新聞・雑誌・ネットのたぐいにはほとんど目を通すことはない。パソコンやスマホなんかも疎い。酒はたしなむ程度だし、
映画やドラマのような
スポーツやホビーに関しても、あいにく見るのもやるのも好きなものはない。体を鍛えたりするのだって、とくにジムに通ったりしたわけではなく、日頃からの実戦の結果だし。
「でも、家事は全般お得意ですよね! おいしいお料理を作ったりとか」
「必要に駆られてやってるだけで、別に趣味じゃねえし。誰かさんがまったくやってくんねえからな」
そう言うとエルミヤさんは、俺からそっと視線を逸らした。
それからしばらく走ったあと、ようやく俺たちは見慣れた街に戻ってきた。
「――あっ、そういやひとつだけあったぜ、俺の趣味」
「えっ、それはなんなんですか?」
「車だよ」
「くるま? ……これのことですか?」
エルミヤさんは、俺が握っているプリウスのステアリングを指さしたが、俺はかぶりを振った。
「いや、
そう言いながら俺は、ちょうど目の前に迫ったその自動車修理工場の看板を指さした。
そこには「親切丁寧!
車を店頭に停めると、中から整備士のツナギを着た女の子が顔を出した。
「おー、
続く
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