第2話 ハイウェイステーション
ハイウェイ脇の水素ステーションに到着したのは正午過ぎだった。
水素ステーションのスタンドは無人だったが、ハンバーガーショップが隣接していた。
給油前にまずは自分の腹ごしらえだと、車を店の駐車場に停める。
駐車場に車は一台も停まっておらず、どうやら客は私だけらしい。
車から出た途端、灼熱の空気が肌を焼いた。
「暑っつーー!」
首筋の汗を腕で拭って店に入ると、エアコンの効いた店内に一気に汗がひいた。
店は私の予想通り誰も客が居らず、腹の出た黒人の中年オーナーがカウンターの中に一人居るだけだった。
「いらっしゃい」
オーナーが声を掛けながら私を観察する。
入ってきた私に警戒した様子だったが、黒のショートタンクトップにホットパンツといった、露出の高い私の服装に眉を顰めただけで、すぐに警戒を解いた。
「……注文は?」
私が外の見える窓際のテーブル席に座ったタイミングで、オーナーが注文を聞いてきた。
「チーズバーガーとゼロコーク」
「少し待ってろ。それと、ここは水が高けえからサービスはなしだ」
注文を聞いたオーナーがキッチンに入り、料理を作り始めた。
店は木造の建築でレトロな雰囲気だった。
ラジオから地元チームのベースボール中継が流れているが、私はベースボールに興味が無く、こんな暑い中でよくやるなとしか思わなかった。
「どこから来た?」
暑そうな外を眺めていると、調理中のオーナーが話し掛けてきた。
「ニュージャージーから」
「あっちはどんな様子だ?」
「戦争孤児で溢れてるよ」
私の戦争に対する皮肉に、オーナーが鼻で笑った。
「嫌な世の中だ……ほら出来たぞ」
オーナーはそう言うと、レジの前に注文の品を乗せたトレイを乱暴に置いた。それで、何となくこの店の人気の無い理由が分かった。
電子決済でチップを含めた金額を払ってから席に戻る。
この店のチーズバーガーは私の掌よりも大きく、食べきれるか分からなかった。
ゼロコークで喉を潤してから、チーズバーガーを両手で掴む。口を大きく開けてかぶりつくと、ジューシーな肉とチーズの酸味にBBQソースが絡んで美味しい。だけど、中のレタスは萎びれていた。
「戦争が始まってから、このハイウェイも寂れちまったよ」
「……
オーナーが話し掛けてきたから、口を動かしながら顔を向ける。そんな私の様子が面白かったのか、オーナーの目尻が下がった。
「食事中に悪いな。食べながらでいいから、暇つぶしに付き合え」
頷いて再びチーズバーガーを頬張る。私が食べている間もオーナーは勝手に話し始めた。
「昔はハイウェイも多くのトラックで賑わっていたんだけどな。戦争が始まってからしばらくすると、運転手が徴兵されて皆、戦地に行っちまった」
「ゴクン……よく店が潰れないね」
チーズバーガーを飲み込んでから答える。
「俺はあのステーションの管理人なんだよ。だから、州から補助金が出るんだ」
オーナーの返答に「なるほど」と頷いた。
「それに、10年前に東西を通るリニア鉄道が出来てから、一般人も通りゃしねえ」
それは戦争とは関係ないよ。
「ところで、お前さんはどこへ行くんだ?」
「アリゾナのフェニックス」
「随分と遠くへ行くんだな」
「母さんが病気で死んだんだ。父さんは戦争で二年前に死んでるから、父方のじっちゃんの家で世話になるつもり」
「なるほどな」
私の話にオーナーが納得した様子で頷く。彼の目は「お前も戦争の被害者なんだな」と語っていた。
チーズバーガーを食べ終えて、膨らんだお腹を摩る。ゼロコークを飲めば、氷が解けて結露した雫で手が濡れた。
ふぅ……全て平らげた自分を褒めたい。
流れていたラジオのベースボール中継は、地元チームが逆転勝ちして、実況者と解説者が大はしゃぎしていた。
窓の外は相変わらず死人が出そうなぐらい暑そうで、店の中が天国に思えてきた。
今は地球温暖化の影響で夏の平均気温が43度を超えているけど、数世紀前は夏でもそんなに暑くなかったらしい。
それが年々温暖化の影響で少しずつ気温が上がり、海面が上昇して、大地が干上がったと授業で習った。
その時の教師は、地球温暖化は森林伐採と二酸化炭素の排出が原因で、発展途上国が悪いと言っていた。
だけど、実際は違う。
確かに直接の原因は発展途上国かもしれない。
だけど、伐採した木を購入したのは? 工場を作らせて石油と石炭から出来た品を購入したのは? 危険な原子力発電所を発展途上国に作って、電気を購入したのは? 港を作らせて生態系が壊れるまで海産物を取らせたのは?
他にも色々あるけどさ、その全部が資本を武器に発展途上国から資源を買い上げた先進国じゃないか。その結果がこれだ!
地球温暖化の根本的な原因は先進国の大量消費社会が問題なのに、発展途上国のせいにするのは間違っている。
資本主義の先進国に生まれた私がそんな事を言っても説得力がないのは分かってるよ。
だけど、既に人類は僅かな資源を求めて戦争を始めている。たとえなんと言われようと、人類滅亡のカウントを止められるのなら、私は声に出して叫びたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます