第18話 私とナナちゃんと愉快な仲間たち その3
そろそろ私がテニアン島で何をしていたかを話そう。
私に課せられたのはスターダストの操縦訓練だったが、最初は座学から始まった。
座学といっても教科書なんてないし、シミュレーターもまだ出来てない。そこで、ナナちゃんを先生にして、助手のドローンがホワイトボードに重要な事を書き、私はそれをノートに書いて覚えた。
ナナちゃんの講義を聞けば聞くほど、スターダストはアサルトギアの中でも特別なアサルトギアだと分かった。
航空戦闘機に変形して空を飛び、地上ではホバーリングで高速で駆け、空でも陸でも遠距離でも接距離でもオールラウンダーで戦える。
つまり何が言いたいのかというと、それだけ覚える事が多くて大変だった。
テニアン島に来た当初の平日スケジュールは……。
6時 起床 朝食(缶詰)
7時 座学
11時 テスト
12時 昼食(缶詰)
13時 体力トレーニング
15時 休憩
16時 体力トレーニング
18時 自由時間 or 補修
20時 夕食(缶詰)
22時 消灯
毎日、座学が終わるとテストをやらされた。そのテストに合格しないと夜に補修を受ける事になる。そして、補修後の再テストが不合格だと翌日の13時からの体力トレーニングが座学に変更された。
土曜日の午前中は座学の替わりに、一週間分の座学をまとめたテストだった。それに合格したら翌週の月曜日まで休日だったが、不合格ならその日の午後は補修時間だった。
補修がなければ18時から自由時間だったけど、ほとんどの時間を土曜日のテストに向けての予習に費やした。
アサルトギアの構造を教わった時は、何度かテストで不合格になって補修を受けたが、それ以外の科目は全て合格だった。自分で言うのもアレだけど、そこそこ優秀な生徒だと思う。
このスケジュールで一番つらかった事は何かと聞かれたら、間違いなく食事と答えたね。
あの缶詰は災害用の非常食で人の命を救うかもしれないが、その代償に人の心を圧し折った。
途中で調味料が手に入らなかったら、私は自殺していたかもしれない。
ナナちゃんはアサルトギアの操縦や構造について詳しかったけど、その歴史については何も知らなかった。本人もデータがないから知らないと困った様子で顔をしかめていた。
何時、何処で、誰が作ったのか……ナナちゃんの話だと、スターダストの部品の中には、私の時代だと技術が足りずに作れないのがいくつもあるらしい。
知れば知るほど謎は深まるばかり。ナナちゃんの話を聞いた私と助手のドローンは一緒に首を傾げた。
座学は三ヶ月で完了し、その頃になるとシミュレーターが完成したからそっちに移行する。
座学が終わりと聞いた時は、やっと勉強から解放されて嬉しかったし、シミュレーターもゲームみたいで面白かったから、これからは楽しくなると思っていた。
だけど、まさかこのシミュレーターの仕様がこんなにも鬼畜だったとは……当時は知る由もなかった。
午後は体力トレーニングに費やした。
以前にもナナちゃんが言っていたが、私が持っているヘルメットはスターダストと連動しており、私の脳波を感知して操縦をサポートする機能を持っていた。
そして、そのサポートを受けるためには、操縦者がその動きをきちんと理解して考える必要があった。
つまり、体力トレーニングは体を鍛えるというよりも、体の仕組みを理解することの方が重要だった。
だけど、私はそんなことを全く考えず、拠点にあったトレーニングルームでひたすら体を痛めつけた。
今思うとあれはストレス解消だったと思う。昔、ネットの記事で刑務所に入った犯罪者がやる事がなくて筋トレばかりしていたら、筋肉ムキムキの体になったというのを読んだが、それと同じだな。
体力トレーニングを始めて七ケ月後、気付いたら私の腹筋は六つに割れていた。
私の身長は161センチで、元の体重は51キロだったが、68キロまで増量していた。そして、体脂肪率は18%まで落ち、力を入れると血管が浮かんだ。
やり過ぎだとは自分でも自覚していたよ。だけど、止められなかったんだ。
だって、鍛えれば鍛えるほど筋肉が付いて、体重は増えたけど体は逆に痩せるんだ、スゲー楽しいじゃん!
そして、毎日食べている例の缶詰も私の筋肉増加に一役買っていた。
あの缶詰は何も味がせず人の心を圧し折るのに、栄養価だけは異常に高かった。
この缶詰を生産した会社も災害時用に作ったのに、まさかこれを毎日食べて筋トレをする馬鹿が居るなど想定していなかっただろう。
おそらく毎日缶詰を食べて運動をしてなかったら、カロリー量が高くて私は確実にデブになっていた。だけど、食べた分だけ筋トレをしてカロリーを消費した結果、デブ女は生まれずに筋肉女が生まれた。
ナナちゃんに筋肉の自慢をしたら「やり過ぎよ」と呆れられた。ついでに遠回しに馬鹿だと言われた。
そして、これ以上過剰なトレーニングを続けたら体が大きく膨れて、ホルモンバランスが崩れると注意された。
痩せるのは良いけど体がムキムキになるのは嫌だと反省し、筋トレを控えて食事バランスを変えたら、68キロだった体重が58キロまで減って体脂肪率は20%まで戻った。だけど、お腹のシックスパックは格好良いから維持した。
その結果、今の私の体は筋肉があって女らしさを維持しながらスリムでくびれのある、女性が理想するベストな体型になっていた。
頑張ったよ、私。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます