第11話 世界の分岐点

『人類存命プロジェクトの目的はただ一つ。名前の通りに人類を滅亡から救う事にある。

 賢者の書から未来の情報を得た私は、何百、何千、何万ものパターンを計算して予測した。

 私が目覚めてから今までに多くの歴史的分岐点が存在した。サラエボ事件、ポールランド侵攻、満州事変、アメリア同時多発テロ……それらの未来を変えたとしても、私の計算ではこれらの全てで同じ結末。つまり、核による人類の滅亡を迎えた。


 だけど、私の計算でたった一つだけ、滅亡の未来を変えられる可能性のある分岐点が存在する。

 それが人類が滅亡する原因でもある、ウクライアのオデッサで目覚めるAIの破壊だった。


 そこで、私と賢者の一族はAIの破壊に動いた。

 計画ではオデッサで戦いが勃発すると同時に、AIのある軍事基地に向けて五八発のミサイルを放ち、基地ごとAIを破壊する予定だった。しかし、その計画は失敗する。

 何故なら、ミサイルを放つのとほぼ同時に未来からアサルトギアが現れて、全てのミサイルを破壊したからだ。

 そして、未来から来たアサルトギアはロシミール中華国連盟RCF側に立ち、敵として我々と対峙した。

 それ以降も核爆弾の発射を食い止めようと何度も試みるが、その全てをアサルトギアに阻止されて失敗が続く。

 そして、預言通りにAIが核爆弾を放ち、地球上が核の炎に包まれた。


 結局、我々は未来を変える事ができなかった。




 地球上が消滅した後も、我々はこの拠点に身を潜めて敵の正体を調べた。

 その結果、敵の正体があのAIが進化して、人類を滅亡するべく作成したアサルトギアだと判明した。

 だけど、分からない事が一つあった。それがタイムゲートの存在だ。

 あのAIはどうやって時間を超越するテクノロジーを手に入れたのか。その答えは我々の手にあった。


 スカイブルー。最初の方で話した賢者の一族の前に現れた旅人の事を覚えているか? 彼は預言書の他にも賢者の石を一族に渡していた。

 賢者の石の見た目は、人間の掌に収まるぐらいのただの石だが、その中には巨大なエネルギーが潜められていた。そして、それは時間を超越できるエネルギーだった。

 それが分かったのは、地球が放射能に汚染されてから10年後の事だった。


 偶然それに気付いた我々は、賢者の石を使って過去に戻り歴史を変えようと試みるが、残念ながらそれは上手く行かなかった。

 何故なら、過去、現在、未来において、存在という物は唯一つであり複数存在できない。

 つまり、未来から過去に飛ぼうとしても、その先に同一の存在、または因果関係のある存在が居た場合、未来から来た存在は同じ時代では存在できなかった。

 それがどういう事かというと、人間の場合、生まれる前の過去に飛んでも肉親、もしくはその祖先が生きていたら因果関係が発生して、未来から来た人間は跡形もなく消滅する。

 逆にいえば、過去から未来へ来た人間は消滅せず、来た時代よりも未来でなら存在する事が可能という事だ。




 このテープを聞いているという事は、襲撃の際に賢者の石と研究データも奪われたと思っていいだろう。それならオデッサでタイムゲートが現れたのも辻褄が合う。

 つまり、あのAIは今よりも未来からアサルトギアを送ったと考えられる。


 過去の歴史にアサルトギアが現れない理由……これは推測がつく。

 あのAIは人類の未来が変わると、自分自身が消滅すると考えたのだろう。

 何故なら、未来を変えるということは、その未来の先が消えることに繋がるからだ。




 さて、話が長くなったが、そろそろ君の事を話そう。

 賢者の石を使ったタイムゲートは、時間の指定も場所も正確ではなかった。そこで、我々はそれを正確にするために何度もテストを行った。

 そのテストの最中に現れたのがスカイブルー、君だ。


 もちろん君自身のことではない。未来を変える前の君の事だ。

 彼女は祖父の家に行く途中で、突然現れたアサルトギアに襲われた。

 そして、逃げている途中で、我々がテスト中だったタイムゲートに飛び込んだと言っていた。


 我々は歓喜した。何故ならたった一人だけでも、未来を変える事ができたからだ。

 我々は彼女に事情を説明すると、一機のアサルトギアを彼女に与えた。

 そのアサルトギアは、AG-N701KSスターダスト。

 敵のアサルトギアを奪取して改良を重ね、賢者の石を複製してタイムゲート機能を付け加えたアサルトギアだ。


 彼女は我々の話を聞いて過去のオデッサへ飛んだ。目的はもちろんあのAIの破壊だ。

 その後の彼女がどうなったかは分からない。だけど未だに地上が核の汚染で住めない世界と言う事は、歴史は変わっていないのだろう。

 だけど、何故アサルトギアが彼女を襲ったのか、今なら分かる。

 おそらく、あのAIを破壊する唯一の存在、それが君だからだ。




 我々は彼女に未来を託したが、万が一の事を考えて一つの予備対策を付け加えた。

 それは、彼女が未来を変える事ができず、どうにもできなくなった時、強制的に彼女がアサルトギアに襲われた時間に戻って、自分自身を回収する事だった。つまり、歴史のリセットだ。


 それが、どんな結果になるのかは分からない。だけど、これだけは言える。スカイブルーが未来に来た時間、つまり未来が僅かでも変わった時間。

それが時の分岐点であり、タイムルーフの開始時間だという事だ。




 スカイブルー。人類の未来を変えるのは、もう君しか居ない。

 この拠点に来た時点で、スターダストには次の命令が与えられている。君は過去のオデッサへ飛び、自我を持ったAIを破壊して欲しい。


 それが、私と賢者の一族全員、いや、人類の望みだ!』


 それを最後にラジカセから声が途絶えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る