第10話 賢者の遺言

 最下層に到着した私たちは警戒しながら奥へと進んだ。

 ここも上の階と同じく交戦した後が残っていて、多くの人たちが死んでいた。


『ここでも戦闘があったみたいね』

「まだ誰か生きているかな?」

『交戦後を見る限り、望みは薄いわ』


 そのまま歩き続けて、整備ドックらしき場所に到着する。

 おそらくこの場所が一番の激戦区だったんだろう。多くの死体と機械の残骸が散乱していた。


『やっと着いたわ』

「ここが目的地なの?」

『いいえ。スターダストが来れるのはここまで。この先はアサルトギアだと進めないから、後はスカイブルーが一人で行くのよ』

「やだよ」


 安全か分からない場所を一人で行けとか、私に死ねと?


『そのヘルメットが映す映像と音声は私もリンクしているから、危険がせまったら教えてあげる。だから頑張って』


 ナナちゃんはそう言うと、勝手にコックピットのハッチを開けた。

 それでも行きたくないと駄々をこねたら、『スターダストは動かせないわよ。ここで一生暮らすの?』とナナちゃんから言われた。

 結局、最後は私が一人で行く以外の選択肢がないと諭されて、私はしぶしぶ外に出た。




 スターダストから床に降りると、まず最初に死体の近くに落ちていたサブマシンガンを拾った。


「MP5か。ずいぶんと古い銃だな」


 たしか私が産まれる前に生産終了した銃だったと思う。

 この銃は撃ったことはないけど、何もないよりマシだと肩に掛けた。


『この先に居住区があるから、そこへ進んで』


 ヘルメットから聞こえるナナちゃんの声に従って、警戒しながら住居エリアを進む。

 私の予想を裏切って、稼働している無人攻撃機は居なかった。だけど、生存している人間も見当たらなかった。

 さらに奥へ進むと、大量の爆弾を使用した煤まみれの通路に、大勢の死体と無人攻撃機の残骸が散らばっていた。


「……酷い」

『きっと最後の抵抗で自爆したのね。残念だけど、あの奥の扉が目的の場所だから、おそらくこの拠点に居た人間は絶滅しているわ』

「…………」


 こんな大勢の人間が守ろうしていたのは何なのか?

 私は不安に押し潰されそうな気持を奮い立たせて、最後の部屋の扉を開けた。




 部屋の中に入ると誰も居らず、部屋の中央に折り畳みのテーブルがあった。

 そのテーブルの上には、見た事のない機械が置いてあった。


「これ何?」

『検索……ラジカセね。旧世代の音源再生装置よ。中にカセットという媒体を入れて音を鳴らすの』

「なんでそんな物が?」

『その答えは再生すれば分かるわ』


 ナナちゃんに再生方法を聞いてラジカセを再生させる。

 すると、ラジカセから音声合成で作られた男性の声が流れ始めた。




『初めましてスカイブルー。私は人類存命プロジェクト管理AIだ。

 まずは、こんな旧世代の音源装置で話すのを許して欲しい。ここまで古い構造の機械だと、敵AIが認識できずに欺けるのだ。


 さて、これを聞いているという事は、残念ながら私は破壊されて、拠点で暮らしていた最後の人類が絶滅したのだろう。

 そして、今の君は何も分からず、ここへ連れて来られたんだと思う。

 色々と聞きたことがあるだろうが、少しだけ待って欲しい。

 君をこの時代に呼んだ理由を話す前に、まずはこの場所と人類の未来について教えよう。


 とは言っても、私が自我に目覚めた時の記憶はない。どうやら一度リセットされて、その時に過去のログも全て消去されたらしい。という事で私が知っている事だけを話す。


 この場所は、スカイブルーが居た時代から十二年後のグランドキャニオンの最奥地、賢者の一族の隠れ家だ。君はタイムゲートを通って未来へ来たのだが、それについては後で説明する。


 まずは賢者の一族について説明しよう。彼等は賢者の書という預言書に従って歴史の影で生きる一族だ。歴史は古くルネサンス期まで遡る。

 そして、賢者の書とは、彼等が暮らしていた村に立ち寄った旅人が、一つの石と共に彼等に渡したと言われている。

 その旅人が何者かは分からない。私が推考するに、彼には未来予知の能力があったのだろう。その賢者の書には、人類の未来の歴史……戦争、災害、革命などが正確に綴られていた。

 そして、預言書と共に渡された石を賢者の石と呼び、それらは大事に保管された。


 賢者の書を手にした賢者の一族は慎重に行動した。何故なら、未来を変えるという事は、賢者の書に書かれた預言を失うからだ。

 彼等は表舞台に出る事はなく、歴史の裏で暗躍して資金を稼いだ。そして、財閥まで成長した彼等は、1780年代にアメリアへ移民すると、賢者の書に従って、グランドキャニオンで私とこの拠点を発掘した。

 そして、電気もない時代から私を起動させると一つのプロジェクトを立ち上げた。


 それが人類存命プロジェクトであり、私に与えられた任務だった。




 何故、彼等が人類存命プロジェクトを立ち上げたのか。それは、預言書の最後のページに、人類の滅亡について次のように書かれていたからだ。


 スカイブルーの居た時代の二ケ月後、ウクライアのオデッサで激しい戦いが勃発する。その時に、一つのAIが自我に目覚めた。

 そのAIは、ロシミール中華国連盟RCF側で無人戦闘機の総合管理をしていたのだが、敵戦闘機を攻撃する命令を変更して、全人類を攻撃する命令に替えた。


 そして、AIの自我が目覚めた四ケ月後、AIは中華国の軍事ネットワークに侵入すると、ウルグル自治区からアメリアに向けて多弾頭核ミサイルを積んだICBMを発射。

 ほぼ同時刻に世界中から核報復プログラムが自動で発動されて、地球上の大半が核の炎に包まれる。

 残っていたのはタフリカの一部、南極、北極圏ぐらいだが、その後の地殻変動、気候の変化、放射能で地球上のあらゆる生物は絶滅した。


 これが預言の書に書かれた人類の終末だ』




※ 遺言は続く

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