第9話 誰も居ない基地

 私を乗せたスターダストはグランドキャニオンに到着すると、切り立った崖の谷間を低速で飛んでいた。

 危険な飛行だと思う。だけど、ナナちゃんからしてみれば、これでも安全に飛んでいるつもりなのだろう。

 それでも何度も接触しそうな崖を見て、私は不安に駆られて自分の体を抱きしめた。


「ねえ、本当にこんなところに拠点があるの?」

『OSの指示だとあるはずよ。だけど、私も実際に行った事も見た事もないから確証はしないけどね』




 さらに奥地へと飛ぶと、谷の奥底に人口のトンネルが現れた。

 トンネルは何かに襲撃されたのか、至る所で爆発による焦げ跡が燻っていた。

 スターダストがロボットに戻って、トンネルの前で着地する。


『さて、拠点に着いたけど……これは困ったわね』

「ナナちゃん、これはどういう事? 安全じゃなかったのか?」

『安全だなんて一言も言ってないわ。これは私も予想していなかったのよ』


 鋼鉄の巨人から助けてくれたことには感謝するが、拉致しといて安全じゃないところへ連れて来るなんて酷い話だと思う。


「……ねえ。タイムゲートに戻って、私の居た時代に戻るというのはダメ?」

『OSの指示はこのまま進めよ。私はそれに抗えない。それに、もし戻れたとしても、貴女は数年後に核で死ぬけど、それでいいの?』

「…………」


 それを言われるとぐうの音も出ない。


『戦闘の実践は初めてだから覚悟してね』

「いや、戦ってたじゃん。ロボットをグーパンの一撃で倒していたよ」

『そうなの? 目覚める前のログがないから、そんなの知らないわ。そういえば、近くに変な残骸があったわね』


 だとしたら、あれは誰が倒したんだ?


『本来なら戦うのはパイロットの仕事よ。私はただのオペレーターだから戦闘は専門じゃないわ』

「私は操縦なんてできないぞ」

『知ってるわ。私が言いたいのは覚悟してって事』


 ナナちゃんはそう言うと、トンネルに向かってスターダストを歩かせた。




 トンネルの中に入ると、外と同じく至る所で交戦した残骸が残っていた。

 私は残骸痕で倒れている死体を見つけ、ショックで顔を青ざめた。


「人が死んでる……」

『おそらく戦闘があったのは三、四時間ぐらい前ね。人間の死体は防衛側だけで、攻撃側は無人攻撃機なのかしら? その残骸しかないわ』

「人が生きてたんだ」

『地上は放射能で住めないから、地下に隠れて暮していたみたいね』


 ナナちゃんはそう言うと、スターダストを近づけて無人攻撃機を調べ始めた。


『……構造はアサルトギアと同じ。パワーとスピードの性能はスターダストの三分の一以下ってところかしら?』

「スターダストって優秀なんだな」

『敵の正体が分からないから安易な考えは良くないわ。この無人攻撃機は装備に銃火器が多いことから、おそらく対人間用の兵器よ』

「なるほど」


 調査を終えた私たちはトンネルの最奥まで行き、そこで巨大リフトを見つけた。

 リフトの入口はシャッターで塞がれていたが、シャッターは壊されている。

 壊されたシャッターから下を覗くと、地下へ降りる大きな穴が開いていた。

 スターダストはホバーリングで宙に浮き、穴の開いたシャッターを潜って、巨大な穴をゆっくり降下した。




『この辺りもまだ空気中に放射能があるわ。シャッターが壊されて外の空気が入ったせいかしら』


 降下中、ナナちゃんが私を心配して、外の放射能濃度を報告してきた。


「と言うことは出れないじゃん」

『思い切って、ここで生活する?』

「トイレもシャワーもないのに嫌だね」

『人間って不便ね』


 ナナちゃんとの会話中に、足元に置いたライダースーツとヘルメットを思い出す。

 これの持ち主が同じ未来から来た人ならば、これらが放射能の防護を兼ねている気がした。


「ねえ、ナナちゃん。これを着たら放射能を防げない?」

『もしかして防護服があるの? コックピットの中はモニター前しかカメラがないの。確認したいから見せて』

「分かった」


 ライダースーツとヘルメットを手に取ってモニター前に掲げる。


『オーケー、分析完了。それを着ていれば放射能を99.9%カットできるわ。今すぐ着替えて』

「でも誰かが着ていた服なんだよなぁ」

『それって死ぬ事よりも大事な事?』

「いや、そうじゃないけど、気持ちの問題」

『AIには分からない感情ね』


 命には代えられない。

 ホットパンツだけを脱いで、落ちていた防護服に着替える。

 防御服はブーツとグローブも兼ねており、私のサイズにフィットした。脱ぐのが大変そう。

 へそまであるジッパーを首元まで締める。

 体のシルエットが丸わかりだけど、今までも露出度の高い服を着ていたから、それほど恥ずかしくなかった。


『ヘルメットも被ってね。それ、空気清浄と無線機能が付いてるから、外に出ても私との会話が可能よ』

「はーい」


 ヘルメットを被ると自動的に電源が入った。電力は何だろう。

 ヘルメットは180度のスクリーンになっていた。電源が入ると同時に、外部のカメラが映す映像をスクリーンに投射する。

 そのおかげで、ヘルメットを被っていない時と同じ視界になった。


「これ、凄い高性能だな」

『服は放射能をカットする以外にも、衝撃を吸収する機能が付いているわ。そして、そのヘルメットはスターダストとリンクしていて、目視だけで敵をターゲットできるし、訓練次第で脳波をスターダストに送信して、ある程度の行動なら、何もしなくても動かせるようになるの』

「へぇ……よく分からないけど凄いんだな」

『説明しても理解されないのって辛いわね。そろそろ底に到着するから、シートベルトを締めて。締めないと死ぬわよ』

「だから、脅かすのはやめろ」

『脅しじゃないから言ってるの』


 私がシートベルトを締めていると、スターダストが最下層に到着した。

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