第8話 終末の世界
光の穴を抜けると、そこは砂嵐だった。
空は厚い雲に覆われ、大地を削る強い風が砂を舞い上がらせる。
世界は汚れた赤で染まっていた。
だけど私はこの光景を数日前に見ていた。
ハイウェイステーションでワイズ・ヒューと会った時、突然世界が急転して荒廃した世界。あの時の世界と酷似していた。
荒廃した世界の中、私を乗せたスターダストはホバーリングで砂埃を噴き上げながら、どこかへ進んでいた。
『すごい放射能ね』
砂嵐で全く見えない外を映すスクリーンを眺めていたら、ナナちゃんが話し掛けてきた。
「放射能?」
『ええ。砂嵐の空気中にガンマ線と中性子線が大量に漂っているわ。スカイブルーが外に出たらあっという間に死ぬわよ』
そんな所へ私を連れてくるな。
「それでナナちゃん、ここは何処なんだ?」
『どうやらワープしたみたいよ。砂嵐が酷くてGPSが死んでるから現在地は不明。そもそもGPSの衛星がまだ生き残っているかも分からないけどね。今は北に向かって移動しているわ』
「迷子なのに移動してるの?」
スピーカーを横目で睨む。
迷った挙句に燃料が尽きて死ぬのは勘弁してほしい。
『目的地はOSが指示しているわ。私だって情報がないから不安なの。今はOSの指示に従うのがベストよ』
「それで、その拠点とやらの場所は?」
『グランドキャニオンと呼ばれている場所みたいね』
「グランドキャニオン!? って事は、ここってアメリアなの!?」
『ええ、北アメリア大陸で正解』
目の前の放射能と砂嵐の土地がアメリアだと言われても、とてもじゃないが信じられない。
だけど、目的地がグランドキャニオンと言うことは、光の穴を潜る前から少なくても50kmは離れている。
そこまで考えて、頭の中で信じたくない仮説が浮かび、髪の毛を掻きむしった。
「ナナちゃん、私たちが通った光の穴だけど……」
『タイムゲートよ』
「答えを先に言うな!」
『あら? 異世界とか、別の惑星とか、貴女が変な妄想を言いだす前に教えてあげたのに、怒ることないじゃない』
「別に怒ってない!」
『感情が高まっているわ、少し落ち着いたら? それで話の続きだけど、OSからの情報だと、ここはスカイブルーが居た時代よりも十二年後の未来。大量の核爆弾で地上の生物が絶滅した地球よ』
「十二年後……」
ショックで息が詰まる。
十二年後の未来で人類が……いや、人類だけじゃない。あらゆる生命が死滅している事が信じられなかった。
『人間って愚かね。こうなると分かっていて、いっぱい核爆弾を持っているんだから。何を考えているのかしら?』
私はナナちゃんの呟きに何も反論できず口を噤んだ。
『少し距離があるから飛んで行くわよ』
「……え?」
『陸戦モードから空戦モードに変更』
私が驚いている間に、スターダストが地面を蹴って飛び上がる。
空中で体を畳むと、一瞬で航空機に変形して空を飛んだ。
「わわわっ……と、飛んでる!」
『陸空戦型って言ったでしょ。もちろん飛べるわ』
あれだけの説明でロボットが変形して空を飛べるなど、誰が分かる?
スクリーン越しに大地を見下ろすと、見渡す限り草木一本ない荒廃した地平線がどこまでも続いていた。
世界に一人だけ残されたような虚無感と、孤独感が混じった感情が私を襲う。
『それじゃ、私の飛行訓練も兼ねて飛ばすわよ!』
「飛行訓練って?」
『私も目覚めたばかりって、これも言ったよね。スターダストのスペックは知っているけど実践はまだから、早く慣れるためにも色々と試したいの』
「待って、まだ心の準備が……」
『それじゃ行くわよ!』
「だから人の話を聞けーー!」
私が止めるのも聞かず、ナナちゃんがスターダストの速度を上げた。
急加速に私の体が座席に沈み、心臓が重力に押しつぶされて苦しくなる。速度計を見ればマッハ1.2を超えていた。
『うーん。これ以上はスカイブルーの体に影響が出るわね』
ナナちゃんは私の状態を確認すると、スターダストの飛行速度を落した。
それで苦しかった体が少しだけ楽になった。
『やっぱり実際に試すと色々違うわ。スペックだと最大速度はマッハ3だけど、そこにパイロットの生死は含まれていないわね』
「ハァハァ……人を実験台に使うな」
『ごめんね。貴方が素人なのを忘れていたわ。だけどアサルトギアのパイロットになるんだったら訓練は必要よ』
「パイロット? なんで私が?」
『私も詳しくは知らないけど、拠点に着いたら色々と分かるわ。たぶんね』
「そんないい加減な……」
私はため息を吐いて天を仰ぐと、今の状況を悲観した。
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