第12話 不確定な未来
ラジカセから声が聞こえなくなると、ナナちゃんが話し掛けてきた。
『なるほどね。私の記憶がない理由が分かったわ』
「歴史がリセットされたんだな」
馬鹿な私でも今の話を聞けば理解できる。
『ええ。リセットの条件にスターダストのOSの初期化が含まれていたみたい』
「ナナちゃん。スターダストで私を助けてくれたのって……やっぱり私なの?」
『ログが残ってないから断言できないけど、その考えで正解ね』
「……そうか」
これでコックピットに落ちていた服のサイズが私と一緒だったのと、壁の写真に私の家族が写っていた理由が一致した。
『だけどまだ分からない事が沢山あるわ』
「奇遇だね。私もさ」
『とりあえず、もうそこに用はないから。こっちに戻ってきて』
「分かった」
部屋を出る前に振り向いてラジカセを見る。
計画が失敗しても、諦めずに人類を助けようとしたAI。
生物の住めない荒廃した世界で、滅亡を迎えるしかなかった人達。
そして、もう一人の私……。
私を助けたもう一人の私は、一体どんな気持ちだったのだろう。
助けた代償に自分はリセットされて消える。それを分かっていても私を助けてくれた。自分の事だけど、今の私にはその時の彼女の心境が分からなかった。
だけど、これだけは言える。人類が滅亡する未来が待っているのなら、どんなことがあっても私は未来を変えてみせる!!
「これにアンタの魂が入ってるとは思わないけど、私の変える未来を見せてあげるよ」
私はラジカセからカセットを抜くと、部屋を出ていった。
住居フロアの廊下を走ってスターダストに乗り込むと、ナナちゃんが呆れた様子で話し掛けてきた。
『そんなの持ってきてどうするの? 音声はこっちで録音してるわ』
「そうなの? まあイイじゃん。それで、コレをしまいたいんだけど、グローブボックスはどこ?」
『車じゃないんだから、あるわけないじゃない』
不便なロボットだな。
『スカイブルーが出ている間に、スターダストの燃料の補給は済ませたわ』
「誰も居ないのにどうやって?」
スターダストが自分の手で燃料ホースを挿したのだろうか。想像すると笑える。
『スターダストに汎用型ドローンが四体格納されてるから、彼等を使えば燃料の補給も修理も自分で出来るの』
「便利なもんだな。それで管理AIが言ってた次の指示は?」
『このドックに入った時点でOSの命令が変更されたわ。次の命令はスカイブルーの居た時代。ウクライアのスネーク島の近くよ』
「おっ? やっと戻れるのか」
こんな放射能汚染された世界で一人で生活するなど、とてもじゃないが耐えられない。やっと帰れると思うと声色が明るくなった。
『だけどねぇ……』
「何か不満がありそうな言い方だな」
『不満……いえ、これは不安と言った方がいいわね』
「不安?」
不安を感じるAIは間違いなく不良品だと思う。
『ねえ、スカイブルー。管理AIがもう一人の貴女をオデッサに送ったと言ってたじゃない。それで、彼女は何所へ行ったのかしら?』
「だから、オデッサだろ」
『だとしたら彼等の歴史にスターダストが出てくるはず。それなのに彼の話の中にはそれが出てこなかったわ』
「つまり、スターダストが過去に飛んでオデッサで戦っていたら、未来が変わって、管理AIの話にも出てきたはずだとでも言いたいのか?」
『そのとおりよ』
なるほど。味方のアサルトギアが出てきたら、管理AIが遺言で何かを言うはずだ。
「……確かに変だな」
『そう、変なのよ。それで考えられる理由が二つあるわ』
「話だけは聞くぞ」
『他人事ね』
「自分が分からない事は、頭の良い人に任せているのさ」
『自分で物を考えない癖をつけないと、バカになるわよ』
「はいはい。それで考えとは?」
『まったく……一つは時間が分岐されたかもしれないわ』
「それじゃ分からない。もっと詳しく」
『スカイブルーが未来に飛んだ事で初めて歴史が変わったわ。その時間を分岐点として、未来が分かれた可能性があるのよ』
「つまり、もう一人の私が何かをやらかしたせいで未来が分かれて、別の時間軸へ飛ばされたって事か?」
確かにそれだと、今の私が居る未来に影響は及ばないな。
『ええ、そのとおりだけど、貴女って理解力が良いのか悪いのか分からないわね』
「得意不得意があるのさ。だけど、それなら何故、私が飛んだ未来がここなんだ?」
『それがもう一つの理由。おそらく歴史がリセットされて振り出しに戻ったから、スターダストが飛んだのは、もう一人のスカイブルーが最初に飛んだ未来なのよ』
「……私がもう一人居て、過去と未来がごちゃごちゃしてるから、頭がこんがらがってきた」
えっと、もう一人の私が現在から未来へ飛んで、次に現在よりチョットだけ先の未来のオデッサへ戻った。
その後の行動は分からないけど、歴史をリセットするために私の前に現れて、今度は私が未来に飛んだ。今ここ。って感じか?
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