第13話 パイロット育成計画

『私も混乱しているわ。あと、これも憶測だけど、今の未来はもう一人のスカイブルーがオデッサに飛んだ時間から、そう経ってない気がするのよ』

「そう考える理由は?」

『それも理由が二つあるわ。一つはもう一人のスカイブルーが来る前に未来へ飛んだら、その未来が変わってしまう危険性がある事。もう一つは、もう一人のスカイブルーが居た未来に飛んだら、どちらかが消滅する危険があるからよ。だからOSは貴女に影響が及ぼさない未来を指定したの、きっと』

「そんな気を遣うなら、私の鞄を回収するぐらいの親切があっても良いと思う」

『気遣いじゃなくて、ただの仕様よ』

「すごい、嬉しくて涙が止まらない。クソ! だけど、これで廃墟になった拠点に飛ばされた説明がつくな」

『あくまでも、これは私個人の憶測だから。それと言葉がはしたないわよ』

「あれには全財産が入ってたんだ。それで、すぐに現在に飛ぶの?」

『いいえ、飛ばないわ』


 ナナちゃんの返答に眉をしかめる。


「でもOSの指示は絶対なんだろ」

『次に飛ぶ時代の時間指示はあるけど、今すぐ飛べというわけじゃないわ』

「だけど、ここに居ても仕方ないじゃん」

『すぐに飛ばない理由は貴女を鍛えるためよ』


 ナナちゃんの返答を聞いて嫌な予感がした。




『ねえ、スカイブルー。次に飛んだら直ぐに戦闘よ。それで貴女が勝てると思う?』


 何となくナナちゃんがカメラ越しに、私をジロジロと見ている気がした。


「うっ! それは無理かも……」

『はっきり言うけど、今のスカイブルーはただのお荷物よ』

「そこまで言う?」

『普通のパイロットがウイングマークを貰えるのに最低二年掛かるの。それなのに、一度も操縦した事がない素人が戦えると思う?』

「ムムム……」


 ムッとして反論すると、すぐに言い返されて唇を噛み締めた。


『そこで、スカイブルーのアサルトギアの操縦が上達するまでの間、この時代に留まろうと思っているの』

「うーん。言ってる事は正しいんだけど、この拠点って放射能が入ってきてるんだろ。ここで生活するのはなぁ……」

『もちろんその辺りも考えているわ。スカイブルーが管理AIの話を聞いている間に、ドローンを使って情報を入手したの。そうしたら拠点はここだけじゃない事が分かったわ』

「……へぇ」

『スカイブルーが居た時代の賢者の一族は、世界中に秘密の拠点を持っていたわ。どうやら彼等は影で世界を支配していたみたいね』

「だったら戦争を止めろよ」

『ねえ、スカイブルー。貴女、もしかして賢者の一族が善人だと思ってる?』


 彼等は知っている未来が変わるという理由で戦争を止めず、飢餓に苦しむ難民を無視して自分達だけ金を稼ぎ、人類の滅亡を防ぐというのも自分達が死にたくないからだと考えれば、確かに善人とはいえないな。


「都合の良い善人だとは思っている」

『それって自己満足している悪人と同義語よ』


 私の皮肉にナナちゃんの口調が笑い声に変わった。


『まあ、今は彼等が残した財産があるって事だけを知っていればいいわ。ということで、まだ無事で安全そうな拠点に行って、そこで貴女を訓練するわよ』

「まだ行き先も聞いてないのに、勝手に決めるなよ」

『だったら今言うわ。テニアン島よ』


 名前だけじゃなくて場所も言え。


「テニアン島? ……何所だそれ?」

『貴女、本当にアメリア生まれ? 北マリアナ諸島にあるアメリアの自治領で南国の島よ。その島も放射能で汚染されて、外には出れないけど、ここと同じく地下に拠点があるわ』

「州だけで五十あるのに自治領なんて知らないよ。それに南国だったら、カリブの方が近かったし」

『カリブにも拠点はあったけど、残念ながらそっちは破壊されているわね。という事で、目指すは南国のアイランド、テニアン島よ。そこならスカイブルーもきっと生活できるわ!』

「ノリノリだな」


 ナナちゃんの元気な明るい声に肩をすくめる。


『貴女をその気にさせるための演技よ』


 すぐ返ってきたナナちゃんの返答に、私は操縦席にもたれて天を仰いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る