第6話 『 HELLO SKYBLUE 』

 サファイアの騎士が右拳を引いて立ち上がった。

 甲冑騎士はあの一撃で致命傷を受けたのか、死んだように地面に倒れたままだった。

 サファイアの騎士はパイルバンカーを元に戻すと、甲冑騎士から背を向けて歩きだす。その向いた方向は私の居る方角だった。


 私を助けてくれたけど、まだ敵か味方か分からない。

 近づいて来るサファイアの騎士に、私はゴクリと唾を飲んだ。




 サファイアの騎士は私が隠れる車の前まで近づくと、片膝をついて身を屈めた。

 どうやら私が隠れていると分かっていて、助けてくれるらしい。

 まだ安心はできないけど、このまま隠れ続けてもあっちが動かない気がするし、車が大破したから逃げる手段もない。

 私は覚悟を決めて車の中から外に出た。


「えっと……」


 外に出たのはいいけど、目の前のロボットを見上げながら色々と考えていた。

 言葉は通じるのか? なんで私は突然襲われたのか? そもそもアンタは誰だ? ついでに車が壊れたけど、保険屋への説明はどうしよう……。

 私が何も言い出せないでいると、ロボットの胸部からプレス音がして装甲が開いた。


「もしかして私に乗れと?」


 誰かが出てくるかと思ったが誰も出てこない。焦らされて私が話し掛けても無反応で、思わず頭を抱えた。

 散々悩んで悩んで十分近く悩みまくって出した私の答えは、試しに一度だけ乗ってみようだった。

 自分でも無鉄砲だと自覚しているけど、性分だから仕方ない。




 ロボットの足元まで近づいたら、胸部から足を引っかける器具の付いたワイヤーが降りてきた。

 器具に左足を掛けると自動的にワイヤーが上昇して引き上げたから、慌ててワイヤーにしがみついた。


「こんばんは。誰か居ますかー?」


 声を掛けて開いた胸部を覗く。

 そこはコックピットだったけど、中には誰も居なかった。

 誰も居ないなら戻ろうと思ったけど、ワイヤーの戻し方が分からない。ドジな自分に呆れた。

 地上まで10m以上。飛び降りるには高すぎる。せっかく助かった命を飛び降り自殺で失いたくはなかった。


 戻るに戻れず、身を乗り出してコックピットの中に入ると、操縦席にラバー素材のライダースーツと、ヘルメットが置いてあった。

 そのセクシーな服を拾うと温もりが残っていた。どうやら先ほどまで誰かが着ていたらしい。だけど、これを着ていた人物は何所?

 操縦席を見回していると、座席の右側に写真が貼ってあるのを見つけた。


 その写真には、私の両親と二人の間で笑う自分が写っていた。




「この写真は?」


 この写真を私は知っていた。

 父さんが死ぬ一ケ月前、私の16歳の誕生日に家の前で撮った、幸せだった頃の最後の写真だった。

 今も現像して大事に鞄の中にしまって……


「鞄!!」


 大事な事を思い出した。鞄もスマートフォンもまだ車の中にある!

 現金なんて持ち歩かないから、このままだと私は車だけじゃなく無一文だ。

 ここから降りる方法なんて知らないけど、ワイヤーに足を引っかければ降ろしてくれると信じて身を乗り出す。

 だけど、その前にハッチが閉まって私は閉じ込められた。


「ええーー!!」


 多分、父さんが死んだと聞いた日、母さんが死んだ日に続いて、今日は私の人生で三番目に最悪の日だ。

 車は壊されるし、襲われて何度も死にかけた。挙句の果てに今は謎だらけのロボットに閉じ込められている。

 今まで状況に流されっぱなしだったけど、さすがにキレた。


「ここから出せーー! トラックフォーマーは映画の中だけでやってろーー!!」


 大声で叫んで落ちていたヘルメットを掴む。大きく振りかぶって目の前のオンボードレーダーをぶっ叩こうとしたら、モニターの中央に文字が現れた。


   【 HELLO SKYBLUE 】


 その文字に驚いて、私はヘルメットを振り上げたまま動きを止めた。

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