第4話 鋼鉄の巨人

 ワイズ・ヒューとの出会いから数日が過ぎた。


 あれから私は車を西へと走らせて、いくつもの町を通り過ぎた。

 私が通ったどの町も戦争と温暖化による水の枯渇で寂れていた。

 いくつかの小さな町は、人が消えてゴーストタウンと化していた。


 一応、ワイズ・ヒューの話を気にして警戒していたけど、私の前に選択肢は現れなかった。

 まあ、食後のデザートにチーズケーキかチョコレートケーキかという、私にとって重大な選択肢はあったけど、そんな選択で人類が滅亡したら私は全人類に恨まれる。




 太陽は西の大地に沈み満天の星空が輝く。

 私を乗せた車がじっちゃんの暮すアリゾナ州に入った。

 州都のフェニックス市まで残り50Kmの距離なので、夜通し走らせることにした。


 車のライトがハイウェイを照らす。

 前にも後ろにも車は走って居らず、闇夜は私を孤独にさせた。

 まだこの辺りは砂漠地域で灯りひとつない。そう、そのはずだった。

 だけど、私は夜の砂漠の中に怪しげな光を見つけた。


 車を停めて砂漠の光をジッと観察する。

 光は夜光灯のように暗く輝き、時折、放電を放っていた。


 もし、数日前にワイズ・ヒューと出会わなかったら、あんな光に気づかず無視していただろう。

 だけど、本当かどうかは分からないが、私の選択で人類が滅亡するかもと言われたからスゲー気になる。

 もしかすると、ワイズ・ヒューが現れたのは、私をあそこへ行かせるための誘導だったかもしれない。


 行くべきか、立ち去るべきか……迷ったけど、見つけてしまったからには仕方がない。

 好奇心に負けた私はハイウェイから外れて、砂漠の光に向かって車をゆっくり動かした。




 20分かけてジリジリと光に近づくと、全貌が見えてきた。

 光は直径30mぐらいの大きさだった。今も紫色に暗く光って放電を放っている。

 それは、昔のSF映画で見たスターゲート、そんな感じの穴だった。


 光の穴まで後100m。これ以上近づくのは危険だと本能が感じて車を停めた。

 ここまで来たけど、どうするかは何も考えてない。

 子供のころから無鉄砲な性格で、親からはよく叱られていた。

 とりあえず、写真でも撮ろうかと、助手席に置いた鞄の中からスマホを取り出していると、突如、光の穴の放電が激しくなった。


「な……なに?」


 手を止めて光の穴を注目する。すると、光の穴の中から巨大なロボットが現れた。


「な、何……あれ?」


 私が放心している間、光の穴から現れたロボットは身動きせずにいた。

 ロボットの見た目は人型。その全長は20mを超えているのかな? 遠くからだとよく分からない。

 体を支える足は太く、体を覆う黒光りの金属板は重ねられて、見た目だけでいえば中世の甲冑騎士みたいだった。

 だけど、装備は騎士とは異なり、両肩にはミサイルランチャーの様な筒が伸びて、右手には剣の代わりにマシンガンらしき銃器を持っていた。


 甲冑騎士の顔がこちらを向き、暗闇の中で目が光る。それは暗闇の中で獲物を見つけた狩人の眼光だった。

 狙われている! 条件反射で車をバックに全速で走らせる。

 それと同時に、甲冑騎士の両肩の筒からミサイルが放たれた。




 ミサイルが私の車に襲い掛かる。

 逃げようと無我夢中でハンドルを全力で回したら、車輪が砂地に捕らわれて車体がスピンした。だけど、それが私の命を救った。


 ミサイルが車体に当たる寸前、スピン中の車がスライドして側面を向くと、ひらりと1本目のミサイルを躱した。

 それは、まるで闘牛士が如く鮮やかに避け、ミサイルがボンネットの真上を通り過ぎていった。

 そして、今度は車が背面を向くと同時に、2本目のミサイルが車体の側面を通り過ぎた。

 ミサイルが目の前と私の真横を通り過ぎるのを見て、思わず背筋が凍る。


 だけど、私の運もここまでだったらしい。

 ミサイルが地面に当たって爆発し、爆風で車が跳ね飛ばされた。


「キャーーーー!!」


 車の中でハンドルからエアクッションが膨らみ、私を座席に押し付ける。

 跳ね飛ばされた車が地上を転がっている間、私はずっと叫び続けた。

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