道
圭太は、1人、入り口に立ち零理を見守る。
零理は、ベッドの横に立ち、枕もとをそっと覗いた。
「玲央……」
ベッドに仰向けに、お行儀よく寝ている子供は、間違いなく玲央だった。
玲央、だからいつもパジャマだったんだね。
サボりじゃなかったね。ごめんね。変な誤解をして。
そっと、玲央の顔を触る。
温かい。
生きている。
よかった。
それから、零理は、布団の中から玲央の右手を出すと、両手で包み込むようにぎゅっと握って目を閉じた。
まだ、間に合う。
「玲央。玲央。聞こえる?僕、玲央を見つけたよ。玲央。まだ公園にいる?僕の声、届いているでしょう?」
零理は、玲央の気配を辿った。
体と繋がっているそれは、まだこの病室にはいない。
あの黒い穴に吸い込まれる前に、この体に玲央を取り戻すんだ!!
後ろで圭太が、ぼそっと言った声が聞こえた。
「一人ぼっちで、暗い部屋に寝ていて寂しそうだな。個室なのに、病室に何にも置いていない。殺風景だな。」
零理も辺りを見回してみる。
確かに、何にもなかった。
折り鶴も、色紙も、写真も、勉強道具も、お花も、何にもなかった。
引っ越してきてすぐに事故に遭って、2ヶ月くらい前から意識が戻らないらしい。
体は、もう回復していて、なぜ意識が戻らないのか、医者にも分からないそうだ。
まだ、こっちの学校には一度も通っていないそうだ。
玲央のことを調べてくれた時に、圭太さんがそう言っていたのを思い出した。
零理は、再び目をつぶり、玲央に話しかける。
「玲央、玲央。聞こえる?寂しいね。僕の部屋とおんなじだ。やっぱり僕たち『永遠の仲良し』になれると思う。僕もね、一人っ子で、ずっと家に1人でいるんだ。15時前には家政婦さんも帰ってね。お父さんとお母さんが帰ってくるまで、ずっと1人で家にいるの。僕ね、さっき言ったけど、見えるから、気味が悪いって言われて、お父さんもお母さんもあんまり僕のこと見ないんだよ。あんまりお話もしたことないの。一度だけ、施設ってところに住んだことがあるんだけど、そこでも見えてね。その人を紹介したら、誰もいないのに何言ってるの?って気味が悪いって言って誰も僕に近づいてくれなくなっちゃって、周りに誰もいなくなっちゃって、僕はずっと1人で……。挨拶しても、話しかけても、みんな逃げていって。気がついたら、また施設からお家に戻っていたんだ。」
「学校でもね。ずっと、みんなにも見えてると思ってたから。僕にしか見えてないなんて思わなかったから。同じようなことたくさんしちゃって。それが分かるまで、本当に大変だったんだ。ずっと一人だったんだ。今もずっと一人ぼっちなんだ…。幽霊さんとはお友達になれたんだけどね。この間言った、茜お姉ちゃんと優斗お兄ちゃんのことだよ。圭太さんは優斗お兄ちゃんの『永遠の友達』で、優斗お兄ちゃんのおかげで、この世で初めて、僕を見て、僕の話を聞いてくれる人ができたんだ。その圭太さんが、玲央を心配して、ここまで僕を連れてきてくれたんだよ。助けてくれる人もいるんだよ。」
「僕、約束を守ったよ。玲央をちゃんとみつけて、玲央のところに来たよ。分かるでしょ?戻ってきてよ。約束したでしょ!?玲央!一緒に生きようよ!!」
零理は、ぎゅっと玲央の手を握る。
「僕が、見えるって告白した時、玲央は僕に嘘つきって言ったけど、気持ち悪いって言わなかった。僕のこと、僕自身のこと嫌だって言わなかった。そんなこと玲央が初めてなんだよ。2ヶ月も毎日僕の隣にいてくれたの、玲央が初めてなんだよ。僕を1人にしないでよ。玲央、僕待っているから。玲央が、僕と一緒にいたいって少しでも思ってくれるなら、こっちを向いて。僕寂しいよ。玲央がいないと寂しいよ。玲央、お願い。今、ここまでの道を作れるように頑張っているから、黒い穴に負けないで。玲央!!!」
零理は、『生まれ持った感覚』に、集中していた。感覚が一本の糸みたいになると、どんどん糸を紡ぐように太くなっていく。まるで道のように……。
玲央の体を通して、玲央が見ている景色が、ぎゅーっと流れ込んできた。
「うわあ!?」
初めての感覚に驚いて、思わず玲央の右手を放してしまいそうになった。それを必死で耐えた。
玲央の手は、絶対離さないぞ!
零理は、必死で玲央の手を握っていた。
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