ピンポーン

ピンポーン


零理は、小杉と書かれた表札の家の前に立っていた。

「はーい。」

インターホンから女の人の声が聞こえた。

「僕、零理って言います。圭太お兄ちゃんはいますか?」

「圭太?ちょっと待っていてね。圭太、お客さんよ!」

プッ

インターホンのマイクが切れた音がした。

それから少し待っていると、

「零理君、どうしたの?」

玄関から圭太が飛び出してきた。


それから、2人であの公園に行った。圭太と優斗が遊んできた公園。圭太と零理が遊んだ公園。その公園の奥にあるブランコに座ると、

「何か俺に用事だった?」

圭太が、零理に聞いた。


「うん。僕ね、この公園で穴を掘って遊んでいたの。そうしたら、見つけたの。これきっと圭太さんと優斗お兄ちゃんのだって思って。」

「穴を掘って?」

「うん。これなんだけど。」

持っていたバッグから、昨日掘り出したばかりの赤い缶をそっと取り出す。


すると、

「これ!?え?どこに埋めてあった?」

「えっとね。松の木の下だよ。」

「そうだ。小学校一年の時、優斗と埋めたんだ。すっかり忘れていたよ。」

「やっぱりそうだったんだ。じゃあ、これ返すね。」

そう言って、零理は赤い缶を圭太に差し出す。


「ありがとう。よくわかったね。俺たちのだって。」

「うん。蓋を開けて中を見たら名前が書いてあったから。それで。勝手に中を見てしまってごめんなさい。」

零理は、しょんぼりとうつむく。


「いや、いいよ。みんなの公園に勝手に埋めたんだし。こんなの地面から出てきたら誰だって蓋を開けるよ。でもよく見つけたな。ありがとう。また一つ優斗との思い出が増えたよ。」

圭太は、とても愛おしそうに赤い缶を見つめる。


「でも、なんで穴なんか掘ってたんだ?」

圭太が不思議そうに聞いた。零理は、シャベルを見せながら、

「昆虫を探してた。綺麗なやつ。」


そういうと、圭太は、目を丸くして、それから大きな声で笑った。

「零理はちょっと大人びたところがあるなあと思っていたけど、やっぱり小学生なんだな!」

お腹を抱えて笑っている。


「うん。小学5年生だよ。昆虫綺麗で好きなんだ。」

「そうか。なら今度俺の部屋においで。図鑑がたくさんある。よく優斗と一緒に見ていたんだ。」

「本当!じゃあ、今日みたいに行っていい?」

「いいけど、俺いないときに来ても仕方がないだろう?こないだ連絡先交換したんだから、来る前に連絡くれればいいよ。」


「そうだった。忘れてた。」

圭太は、目に涙をためて笑っている。

「本当にお前って小学生なんだな。」

それの何が可笑しいのか、圭太はずっと笑っていた。


やっと、圭太の笑いが落ち着くと、零理は聞いてみた。

「それ、開けて見ないの?」

圭太は、膝に置いた赤い缶を大事そうに抱えている。

「そうだな。開けて見るか?」

「うん!」



圭太は愛おしい誰かに触れるように、赤い缶に触れて蓋をそっと優しく開けた。

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