優斗の家へ

ピンポーン


「はい。」

久しぶりに聞く、優斗の母親の声。


「お久しぶりです、圭太です。」

圭太が名前を告げると、少し驚いた声。

「え!?圭太君!ちょ、ちょっと、待って!」


バタバタバタバタ。

慌てて家の中を走る音が聞こえる。


ガチャッ

玄関の扉が、勢いよく開いた。


「圭太君!きてくれたの!?」

飛びかからんばかりの勢いに驚きながらも、

「お久しぶりです。この度は…。」

「いいから上がって。優斗もきっと喜ぶわ!」

優斗の母親に背中を押されながら、圭太は久しぶりの田中家に足を踏み入れたのだった。



「いらっしゃい。そこに座って。今お茶を淹れるわね。」

「ありがとうございます。あの、優斗は?」

「あ、ああ…。優斗は隣の部屋よ。行ってあげてくれる?」

「はい。お邪魔します。」

リビングを出て、隣の和室の扉の前にたった。

この先に優斗がいる。

「優斗、入るよ。」

いつも、優斗の部屋に入る時と同じ掛け声で、和室の扉を開けた。


「!?」

そこには、とびきり笑顔の優斗の写真が飾られていた。


我慢していた悲しみが途端に湧き上がってきて止まらない。

ゆっくりと優斗の位牌に近づき、前に座った。

自分でもびっくりするくらい泣いていた。


優斗のお母さんは、圭太が部屋を出て来るまで、静かに待っていてくれていた。


やっと涙がおさまって、お線香をあげ、

「また来るよ。」

と、やっぱり遊びに来た時みたいに優斗に声を掛けると、和室を出てリビングに向かった。


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