行ってくるよ

「圭太さん、こんにちは。」


小さなビニール袋を提げた圭太が、〇〇公園の前の横断歩道を渡って、零理の方に歩いてくる。


「こんにちは、零理君。もしかして、君もお祈りしてくれていたのかい?俺の永遠の仲良しのために。」

圭太は、電信柱の前で足を止めた。


「うん。僕なんかが何かできるか分からないけど。祈ることはできるから。」

「ありがとう。嬉しいよ。」

そういうと、電信柱の前にしゃがんで、持ってきたオレンジジュースとお花を、そっと電信柱の前に置いた。


「また、圭太さんに会えて嬉しい。」

「僕もだよ。昨日はありがとう。おかげで、優斗と話せた。」

ちらっと零理が優斗をみた。

「そっか。よかったね。圭太さん。」

「うん。これからは前を向いて歩いていける気がするよ。優斗と約束したから。」

「約束?」

「ああ。永遠に一緒に歩いて行くぞって。」

そう言って笑った笑顔には、迷いがなかった。

「優斗に恥じない生き方をするよ。いつもあいつと笑っていたいから。」


まっすぐ見つめる圭太の目が、優斗を映しているように見えた。

『ありがとう。圭太。』

優斗は、思いに応えるように圭太をしっかりと見つめていた。


「圭太さんは、優斗お兄ちゃんの家には行ったの?」

「優斗の家?」

「うん。担任の先生がね、仲良かった人が亡くなったら、家にお線香をあげて会いに行ってあげると、亡くなった人が喜ぶんだよって言ってた。」

「そっか。俺、優斗の家にはもう何年も行ってないんだよな。久しぶりに行く理由が、優斗に線香をあげることだなんて、なんて…。」

圭太は、胃のあたりをグッと抑えて俯いた。


そうだよな。それは、死んだことを再認識する作業だ。俺が逆の立場でも、見たくないと思うと思う。

そんな圭太の姿を見て、俺は、申し訳ない気持ちになった。俺がバカだったばっかりに、圭太に辛い思いさせてしまっている。


圭太は、しばらく、ぎゅっと身を固くして動かなかった。


そして、今度は、何かを決意したかのように、両手の拳をぎゅっと握って、零理に向き直って言った。

「いつまでも現実から逃げていたら、ずっとずっと逃げて逃げて、優斗が俺に会いたがっているかもしれないのに、それにも応えられない。それは、“永遠の仲良し”の親友として失格だよな。」

笑顔を作ってそう言った圭太の目には、涙がいっぱい溜まっていた。




「零理君、ありがとう。行ってくるよ。」

圭太は、そう言って歩き出した。

「圭太さん、いってらっしゃい。」

零理は、頑張ってと心の中で言いながら、圭太を送り出した。



圭太の背中見えなくなると、

『零理、俺の家まで一緒に行ってもらえるか?』

「うん。もちろん。道案内お願いします。」

優斗は、零理の肩を掴み歩き出した。

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