黒い穴

それから一週間、玲央は公園に姿を見せなかった。

「どうしたんだろう。」

零理は、ずっと待っていた。

「零理?」

突然、聞きたかった声が、公園に響いた。

振り返ると、そこには、やっぱりパジャマを着た玲央が立っていた。

「玲央!会いたかった!」

零理は、玲央のもとに走った。


「玲央!きてくれてありがとう。玲央に会いたくて、僕ずっと待っていたんだ。」

そういって、玲央を見ると、なんだかとても穏やかで、何かを悟ったような顔をしていた。零理は、なんだかとても嫌な予感がした。

「玲央?」

零理は、心配で呼びかける。

すると、玲央が口をひらいた。


「最後にお別れを言いにきたんだ。」

「玲央?」


「零理ありがとう。最後にお前に出会えて嬉しかった。友達ができたと思ったんだ。あの時、お前に声をかけられて本当に楽しかったんだ。」



死にたい

死にたい

死にたい


玲央の思いが強くて言葉がよく聞き取れない。


ざわ


零理に嫌な感覚があった。

何これ?

なんなの?


ざわっとした方向に目やると、小さな小さな生まれたての黒い穴が、玲央と零理の間に現れたのが見えた。


あの穴なんだろう。

とても嫌なものの気配を感じる。


玲央の気持ち……

死にたい

死にたい

消えたい

もう嫌だ

みんな嘘つきだ

誰も俺を見ていない



負の感情を吸い込んで、少しづつゆっくりと黒い穴が大きくなっていく。



「だめだ!!」

零理は、思わず叫んだ。


零理の『生まれ持った感覚』が、警鐘を鳴らす。


あれはだめだ。

あそこには行っちゃだめだ!



「玲央!!!行かないで!!あれを呼ばないで!!!僕と一緒にいて!!!!!」


玲央は、うっすらと笑みを浮かべた。全てを諦めたような笑みを……


「ずっとなんていてくれないだろう?零理にはちゃんと一緒にいてくれる人がいるじゃないか…」



「永遠の1番の仲良しなんて嘘だったじゃないかー!!!!!」

玲央は、叫んだ。心の奥のとてもとても強い何かの感情を吐き出すように……


「嘘じゃないよ!!!」

零理も負けずと大声を出す。


玲央は泣いていた。

玲央は、「この世に何も未練なんかない」って言って泣いていた。

玲央は、「ここからいなくなりたい」って言って泣いていた。


「嘘だったじゃないか!零理の嘘つき!!」

「嘘なんかじゃない!嘘じゃないよ!!」

零理は、玲央とそんな言い合いをしながらも、小さくあいた黒い穴が気になって気になって仕方がなかった。


あの穴は、玲央自身が呼んだ奈落……

あそこに落ちたら、もう2度と会えない…

そんな予感が零理をざわつかせる。


「あの人…圭太ってやつと話していた零理、俺といる時より楽しそうだった!!!」


「圭太さん!?」


なんでここで圭太の名前が出てくるのか、零理には分からなかった。

ただ、確かにあの日から、玲央は、公園に姿を現さなくなっていた。

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