君には「いってらっしゃい」と言わない
「玲央と初めて会った公園は、『永遠の仲良し公園』って言うんだ。」
突然、零理が玲央と会ったこの公園について話を始めた。こんな時にまで、全然違う話をする零理に、玲央は苛立ちが隠せない。
「は?なんで今そんな話をするんだ。また人の話を聞いてないだろう。ムカつくんだよ!それに、そんなの聞いたことないよ。嘘つき!」
「嘘じゃないよ。だって僕と圭太さんでつけた名前だから。」
聞いたことあるわけないよ!って、零理は威張っていった。
「なんだよ、それ……」
「優斗お兄ちゃんと圭太さんが、永遠の仲良しになった公園なんだよ!すごいでしょ!」
嬉しそうに言う零理に、
「だから?お前何言ってんの?」
「だからね、この公園で出会った僕たちも、永遠の仲良しになるんだよ!」
「だから、その『永遠の仲良し』ってなんなんだよ?」
「圭太さんと優斗お兄ちゃんが、『永遠の仲良しはね、親友より仲良しの友達のことなんだ』って言ってた!圭太さんは、優斗お兄ちゃんの『永遠の仲良し』で、僕とではないんだよ!僕の『永遠の仲良し』は、玲央だけなんだよ!だからさ、戻ろうよ。戻って、僕といっぱい遊ぼう。」
「何言ってるんだよ!お前もどうせ嘘をつくんだろう?俺は1人ぼっちで、誰も相手になんかしてくれないんだ。だから別に戻らなくても、誰も困らないし、誰も悲しんだりしないんだよ!」
「僕は、嘘はつかないよ。僕は、玲央がいなくなったら悲しいよ!君が戻るまで、ここにくるし、君を待ってる。僕は、君と永遠の仲良しになるって決めたんだ!!」
玲央に負けないくらい大声で叫ぶ。
「何、勝手に決めてるんだよ。」
項垂れる玲央。
「もう、決めたんだ。勝手に決めたんだ。」
零理は、そんな玲央に訴えかける。
「嘘だ。俺と一緒にいてくれるやつなんか、誰もいないんだよ……零理は知らないだけなんだ……。」
「玲央?」
急に静かになった玲央を、心配そうに見つめる。
玲央は、ぎゅっと拳を握り締め、顔を上げると、再び怒鳴り出した。
「帰ったって誰もいない。家にも病室にも。誰も俺に会いにきてくれないんだ。いてもいなくても同じなんだよ。むしろ、いない方がみんないいんだ!学校に行ったことないのに、学校に待っててくれる友達なんているわけない!そんな気持ちお前にわかるのか!?」
最後は、絞り出すように叫んで、零理を睨みつけた。
黒い小さな穴が、また少し大きくなった。
零理は、チラッと黒い穴に目をやってから、玲央の目をまっすぐにみた。
零理は、知っていた。
自分もそうだったから。
だから、そのままの気持ちを口にした。
「分かるよ。」
その言葉をきいた玲央は、かーと顔を赤くして、怒りをあらわにした。
「分かる?お前に俺の何が分かるっていうんだ!!ふざけるな!!いつも楽しそうに笑っていて、素直で、いいやつで。捻くれてもいない。そんな奴に俺の何がわかるって言うんだよ!!!!」
零理は、怒りをぶつけられても視線を外さなかった。
まっすぐに、玲央の目を見ている。
玲央は、その目から視線を外すことができなかった。
2人は、見つめあっていた。
「分かるよ。」
という言葉だけでは、気持ちは伝わらないことを、零理はこの時初めて知った。だから、今まで誰にも言ったことがないことを、玲央に伝えようと思った。
僕たちは、『永遠の仲良し』だから。
圭太さんと優斗お兄ちゃんみたいに、『永遠の仲良し』になるんだ。
「玲央、聞いて。言ってなかったけど、僕もずっとひとりぼっちだったんだ。茜お姉ちゃんと優斗お兄ちゃんに出会うまでは。」
「じゃあ、その優斗お兄ちゃんと一緒にいればいいだろう?お前は、今は1人でもなんでもないじゃないか!」
「ううん…。大好きな茜お姉ちゃんも優斗お兄ちゃんも、もういないんだ。」
「いないって?」
「茜お姉ちゃんと優斗お兄ちゃんはね、先にいっちゃったんだよ。ぼくは、2人に『いってらっしゃい』って言ったんだ。だから、もうここでは会えないんだ。」
「それって、死んだってことか?」
「ううん。正確に言うと、出会った時には、もう死んでたんだ。」
「!?ど、どう言う意味だよ!?怖いだろう?」
流石の玲央も、驚きを隠せない。
死んだやつと出会った?
どういうことだろう?
玲央は、困惑する。
零理の表情は変わらない。初めて見るとても真剣な顔。
「そのままの意味だよ。茜お姉ちゃんにも優斗お兄ちゃんにも、2人とも死んでから会ったんだ。」
「それって、幽霊ってことかよ?お前は、それが見えるってことか?」
信じられないものをみるように、零理を見た。
「玲央のこと、僕、見えてるでしょ?」
「見えているけど……そうだけど……。」
そういって、うつむき何かを考えている。零理が今言った言葉を理解しようとしていた。玲央は、それでも、やっぱり、零理は1人なんかじゃない、俺と同じじゃないという思いがどうしても拭いきれない。今までずっと辛い思いをしてきたから……。
玲央は顔をあげ、零理を見る。
「なら、俺にも『いってらっしゃい』って言ってくれよ。」
懇願するように言葉を紡ぐ。
「嫌だ……」
零理は、泣き出しそうな顔をして玲央に答えた。
いつも笑っている零理があんな顔するなんて……。でも、暴走した心は止められない。
「お前、大好きだって言ってたお姉ちゃんとお兄ちゃんに『いってらっしゃい』って言ってきたんだろ?」
「嫌だ……」
「俺にも言ってくれよ。『いってらっしゃい』ってさ。お願いだ、零理。最後くらい誰かに見送られたいよ!!」
空気を切り裂くような、悲痛な叫び声……
黒い穴が、玲央を嘲笑うかのように、その口をまた広げた。
「嫌だ!言わない!言わないよ!玲央には言わない!!絶対に!!」
零理は、叫んだ。
「なんだよ、ケチだな。俺には、言ってくれないのか?俺のことは大好きじゃないのかよ!?」
「大好きだよ!永遠の仲良しだよ!だからこそ、あんなところに『いってらっしゃい』なんていうもんか!!」
零理は、大きく横に首を振ると、キッと玲央を睨みつけ、さっきの玲央より大きな声で、叫んだ。
「僕は、君には、『いってらっしゃい』って言わない。『おかえり』って言うんだ!
絶対に!!」
一度言葉を切り、大きく息を吸い込む。
「それで、一緒に生きて、一緒に大きくなって、一緒に遊んで、ずっと一緒にいるんだーー!!!!」
零理は、ありったけの大声で、玲央に向かって叫んだ。
零理のあまりの迫力に、玲央は声が出せなかった。
零理は、もう一度深呼吸をし、何かを決意したように、力強く頷くと、
「先に行って待っているよ。約束する。必ず玲央を見つけて、玲央のそばに行く。玲央が迷わないように。僕が道になるから!だから、僕が約束を守ったら、レオも戻るって約束して!」
約束だよー!!
零理は、そう勝手に言い放って、勢いよく駆け出していた。
「おい!!また勝手に!!どうせ、俺の居場所なんて分からないくせに!!嘘つき!!馬鹿野郎!!」
玲央の怒声を背中に浴びても、零理は振り返らなかった。
零理は、ただひたすら前を向いて走った。
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