二つ折りの紙切れの正体
紙袋の中には、お菓子と白い封筒が一通入っていた。
「あいつが手紙?初めてだろ。」
圭太の手は、紙袋から一通の白い封筒を取り出していた。
「封がしてない。あいつ手紙なんか書いたことないんだな。」
何だか、笑いが込み上げてくる。白い封筒の中から一枚の便箋を取り出した。
『圭太へ
手紙書くの初めてだな。
手紙自体書くの初めてだけど。
ネットで調べてみたら、なんか決まりがいっぱいあって何だか分からん。
だから、俺の書きたいこと書くな!よく聞けよ!』
「なんだよ。よく聞けよ!って。これ手紙だぞ?よく読めよ!だろ?優斗らしくて笑える。」
圭太は、思わず笑ってしまった。
次の行に目をやると、謝罪の言葉から始まっていて、最後に優斗と会った日のことを思い出した。
続きに目をやる。
『この間はごめん。大事だものだって知ってたのに、酷いこと言った。許して欲しい。
いつもこっそり眺めて大切に持っていたの見てた。それもごめん。黙って隠れてみてて。
あの日、圭太、走っていって教室に戻ってこなかったな。探していたんだろう?次の日も学校来なくて。きっと見つからなかったんだと思ったんだ。
だから、俺が探した。探し出した。
少し土がついてしまったが、受け取ってくれ。
こんなに大事なものだったなんて知らなかったんだ。本当にごめん。
これは、『2度と書き直せるものじゃない』な。この世にたった一つの大切なものだ。寂しさに耐える時にじっと見ている圭太の気持ちが少し分かった気がした。俺でもそうすると思う。絶対にそうする。いつも一緒にいたいと思う。
だから、もう2度と落とすなよ!
PS.圭太、誕生日おめでとう!』
手紙を持つ手が震える。
え?どういうことだ?
『探した、探し出した。……もう落とすなよ。』
白い封筒の中を、もう一度確かめる。
指先に紙の感触。二つ折りにされた小さな紙切れ……。
開くと、親父の字で
愛する圭太へ
―圭太、誕生日おめでとう。いつもお前とともに。お前のそばで見守っているー
父より
「ああ………」
大粒の涙が後から後からこぼれ落ちて、圭太の膝を濡らしていく。
ああ、優斗…お前は…お前ってやつは……
落とした俺が悪かったのに。
それを見つけて届けてくれたのに。
この紙切れについて何にも話していなかったのに。
それに、風で飛ばされたのは、優斗のせいじゃなかったのに。
俺は、優斗に八つ当たりをしたんだ。
俺は、一日探して諦めた。そして、いじけて引きこもった。
それなのに…、それなのに優斗は、諦めず探してくれていたなんて……。
こんな小さな紙切れを、どこに飛んだか分からないあの広い敷地の中から……。
優斗は探し出してくれた。
酷いことを言った俺のために……。
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