飛ばされた紙切れ
あれは、水曜日のことだった。
あいつを…小杉圭太を、俺は傷つけてしまったのだ。
「おい、圭太。これお前のか?」
さっき拾ったばかりのそれを圭太に差し出す。
それは二つ折りにされた小さな紙切れだった。
「ありがとう、優斗。」
そう言って圭太が手を出した時、風が吹いた。とても強い風が。
外は強風で窓は閉められていたはずだったが、通りかかったクラスメイトが、
「すごい風だな。」
と、言いながら、窓を開けたのだ。
俺の手から離れて、圭太の手に渡る瞬間の出来事だった。
「あっ!!」
俺と圭太の手は、こぼれ落ちたひとひらの紙切れを追って空を泳いだ。
小さな紙切れは風にのって窓の外へ出ていってしまった。
俺たちの様子を見て、窓を開けたクラスメイトが申し訳なさそうに言った。
「あ、悪い。なんか飛んでったけど、大丈夫だったか?」
圭太は呆然とした様子で窓の外を見つめていた。
飛んでいった小さな紙切れの行方を、必死で追うように。
俺は、事情なんて知らなかったんだ。
それが、圭太にとってどれだけ大切なものだったのか。
知っていたら、あんなこと言わなかったのに……
授業の鐘が鳴った。
「行こうぜ、圭太。なんかのメモだろ?また、書き直せばいい。」
そういうと、窓の外を見つていた圭太が、カッとした顔をして振り返りざまこういった。
「書き直せないんだよ!2度と!」
圭太は、涙を堪え、悲しみと不安と怒りと…いろいろな感情が入り乱れてぐちゃぐちゃの顔をして叫んで、走っていってしまった。
その後、圭太は教室に戻ってこなかった。
「何だよ。あいつ…。たかが小さな紙切れ一枚に。」
訳がわからず怒鳴られて、俺もイライラしていた。
翌日から、圭太は学校を休んだ。
圭太は、飛ばされた紙切れを探している気がした。
圭太のあのぐちゃぐちゃの顔が、頭から離れなかった。
その日の放課後、俺は紙切れを探し始めた。
紙切れが出ていった窓の下辺りから、徐々に範囲を広げながら、2つ折りの白い紙切れを探し歩いた。
そこは、木が植えられていて、長く育った下草が枯れて横倒れていた。そして、その上に、落ち葉がいっぱい積もっていて地面が見えない。もうすぐ秋も終わろうとしている。土日に清掃が入ると先生が言っていたから、それまでに探し出さないと、ゴミとして収集されてしまうだろう。
学校の敷地内にあれば、の話だが…。
木曜日の放課後、窓の下周辺をくまなく探したが、見つからなかった。
金曜日、朝早く来て少し範囲を広げて探したが、見つからなかった。
お昼休みも早食いして探した。
圭太の席は空っぽで、何だか心が落ち着かなかった。
今日見つけられなければ、明日清掃が入る。そうしたらきっと見つかる可能性は、0に限りなく近くなる。
放課後、もう一度、紙切れが出ていった窓に立ってみた。
「そういえば、圭太はずっと紙切れの行方を追っていたな。」
窓の外を見る。
「確か、最後はこっちの方を見ていた…」
窓から右方向、あの日慶太が見つめていた場所を目に焼き付ける。
そして、駆け出していた。
土曜日、やっぱり学校に来なかった圭太のために、圭太の大好きなお菓子を買って帰る途中、〇〇公園の近くで圭太を見かけたんだ。
「圭太!」
俺は、あいつに…圭太に会わなければならない。伝えなければならない。
絶対に!
自転車の速度が上がった。
圭太以外見えなくなった。
次の瞬間、体に衝撃が走った。
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