引き戻す力
「零理!」
突然苦しそうな声をあげた零理に、ドアの前に立って見守っていた圭太が、慌てて駆け寄って、零理をぎゅっと抱きしめた。
すると、
「え!?なんだこれ?」
零理から何か不思議な何かが、渦のように流れているのを感じた。
腕の中の零理を見ると、圭太には気がついていないようだった。
「零理?」
呼びかけてみたが、返事はない。
零理を取り巻く不安定な渦のようなものは、とても大切な何かを取り戻そうとしているように思えた。
「うう……」
零理はうめき声を上げている。
このまま零理を放したらいけない気がした。
ものすごい渦のような何かに弾き飛ばされないように、圭太は、ぎゅっと零理を抱きしめた。
**********
「玲央!玲央!」
零理は、叫び続けた。すると、だんだん視界が変化していっているのに気づいた。
「これは?」
それでも、零理は休むことなく、玲央を呼び続けた。零理からほとばしる『生まれ持った感覚』の束がどんどん太くなって、零理の前にキラキラ光る道ができた。
零理は、迷わず一歩を踏み出した。
零理は、『生まれ持った感覚』で作り上げた道を通って、玲央のいる公園へと辿り着いた。
零理が公園を出た時には、まだほんの小さな穴だったのに、もう人1人飲み込むことができるくらいまで成長していた。
玲央は、そのままゆっくりと、でも着実に黒い穴へと近づいている。
「玲央!!!」
零理は、玲央の魂をぎゅっと抱きしめた。
「…れい…り…?」
玲央の目がかすかに開いた。
「玲央!玲央!」
零理は、必死に呼びかける。
「零理、お前も大変だったんだな。分からないくせにって言ってごめん。」
「そんなこといいよ!玲央!!」
「俺も1人で寂しかったんだ。零理と会って嬉しかったんだ。毎日あの時間がくるのが嫌だったんだ。面会時間なんてなくていいのに……」
「面会時間があったから、玲央に会いに来れたよ!」
「ははは。そうだな。零理はきてくれた。あの寂しい誰も来なかった部屋に。」
「これからも行くよ。退院しても会うよ。約束だよ。」
「ありがとう。でも、自業自得だよな。あの穴、俺が呼んだんだ。俺を飲み込むまで諦めないらしい。零理、巻き込まれる前に1人で戻れ。」
「嫌だ!絶対嫌だ!僕は諦めない。初めてできた友達を、絶対に諦めない!」
零理は、ぎゅっと玲央を抱きしめる。
「零理、戻れ!」
玲央が、零理を自分から突き放そうとする。
「嫌だ!僕を思うなら、強く強く生きたいって願って!僕と友達になりたいって思って!お願い!!あれは、玲央がいなくなりたいって強く願った形だから。だから、その思い以上に玲央がいっぱい強く生きたいって願えば、あの黒い穴は消える!!」
零理は、解かれた手を玲央に伸ばし、玲央の手をぎゅっと力強く掴んだ。
絶対に黒い穴には渡さない!という強い意志が玲央にも伝わってくる。
「まだ、間に合う!僕を信じて!!僕と一緒に黒い穴と戦って!玲央―――!!!」
玲央の顔つきが変わる。
玲央が、零理の手を、力強く握りかえした。
「分かったから泣くな!!」
玲央の言葉を聞いて、零理は嬉しそうに笑った。
僕は、『生まれ持った感覚』をフルに使い、玲央の体とのパイプを太く強いものに強化した。玲央は、僕を信じてくれた。死にたいって思っていた感情を、生きたい!に変えてくれた。僕と一緒に生きたいって思ってくれた。その思いは、強く強くなり、黒い穴が徐々に小さくなっていった。それでも、大きく膨らんだそれは、とても力が強く一瞬持っていかれそうになった。
その時、ぐいっと引き戻す力がかかった。その力にのって、零理と玲央はさらに強く強く戻りたいと願い、その結果、黒い穴に打ち勝って病室に戻ることができた。そこには、病室で零理と玲央をぎゅっと抱きしめている圭太の姿があった。
**********
玲央は信じられないものを見るような目で、ベッドの横で玲央と零理をギュッと抱きしめる圭太を見た。
あの時感じた、引き戻す力は、圭太のものだったのだ。
「うん。助けてくれる人、いるでしょ?目が覚めたらさ、一緒にお願いしない?」
零理は、玲央の手をぎゅっと掴んで、笑った。
「お願い?」
「うん。あのね……」
僕たちのお兄ちゃんになってくださいって!
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