小杉圭太

そこへ、懐かしい声が……。


「どうしたの?もしかして迷子?」


突然男の人の声がした。振り返ると、優斗と同じ制服をきた男の子が立っていた。

零理は、何も言わず、声をかけてくれた人を見つめている。


「ここどこ?」

おもむろに零理が、口を開いた。


ここどこって、俺が案内した圭太の家の前だけど。

俺は不思議に思いながら零理を見た。


「ここは俺んちだよ。君は、どこからきたの?」

圭太は膝を折り、零理の目線に合わせて話しかけた。

「あのね、〇〇公園の近くの本屋さんは知ってる?」


公園の名前を聞いて、圭太の顔が一瞬曇ったのが分かった。でも、さっとまた笑顔を作ると、

「ここから15分くらいの所だな。そこまで行けば自分のお家に帰れるかい?」

「うん!僕、零理っていうんだ。」

「そうか、零理君か。分かった。じゃあ、俺がそこまで送ってやるよ。荷物置いてきてもいいかい?」

「うん。ここで待ってる。」

零理がそういうと、

「ちょっと待ってて。」

そう言って、圭太は玄関に消えた。


『おい、零理。お前、道分かるだろう?なんで、あんなこと?』

「僕、圭太さんとお話ししてみたい。」

それだけ言うと、零理は、それ以上何も答えなかった。

俺の声は圭太に届かない。ここで何を言っても、零理に無視されれば、それまでだ。

俺は、静かに見守ることにした。



数分後、制服から私服に着替え、手にはペットボトルを二本持って走って零理の所まで来た。

「お待たせ。零理君、喉乾いてない?」

「ありがとう。もらっちゃっていいの?」

「いいよ。どっちがいい?」

紅茶とオレンジジュースを零理の目の前に出す。

「オレンジジュース!」

零理は嬉しそうに受け取ると、飲み始めた。

「さあ、それじゃあ、行きますか。」

「うん。ありがとう。お兄さん。」


零理は、来た道を圭太と一緒に引き返している。

そんなことを知らない圭太は、

「遊んでいてここまで来ちゃったの?」

と、零理に質問していた。


「うん。公園巡りしてた。あそこの公園にも行ったよ。ブランコ乗った。」

「あの公園か…。」

何だか懐かしそうな圭太の様子を優斗はじっと見つめていた。


「お兄ちゃんもこの公園で遊んだことある?」

「あるよ。小さい頃からずっとこの公園で遊んでいるんだ。」

「そっか。お兄さん、僕とも遊んで!」

「え?家に帰らなくていいのかい?親御さん心配してないかい?」

「お父さんとお母さんお仕事していていない。僕は1人で探検しているんだ!」

わあー、と言って公園に入って行ってしまった。


「元気な子だな。こうやって迷子になったんだな。」

仕方がないといった様子で、零理の後をついて公園に入った。


「あの子何だか、小さい頃の優斗に似ているな。」


ぼそっと呟いた圭太の言葉が、寂しそうに風に消えた。

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