お兄ちゃんって呼んでくれ

「優斗さん。もう少ししたら、昨日の公園に着くけど寄っていく?」

零理は、立ち止まって俺に言った。振り返った零理の顔を見ていたら、無性にある欲求が俺の中に生まれて膨らんだ。だめだ、恥ずかしいけど、お願いしてみよう。

『あのさ、零理。俺、なんだかお前にお兄ちゃんって呼ばれたいなって思ってしまったんだけど。あの……。』

なんだか照れ臭かった。言ってやっぱり恥ずかしくなったけど、どうしても零理にそう呼んで欲しいなって思っちゃったんだから仕方がない!

零理は、一瞬びっくりした顔をして、それからとても嬉しそうに笑った。

「お兄ちゃんって呼んでいいの!?やったー!!ありがとう、優斗お兄ちゃん!」

俺は、初めて優斗お兄ちゃんって呼ばれて、心がふわりと温かなるのを感じた。



一人っ子だった俺は、そんなふうに呼ばれてみたいと、いつだったか思ったことがあったからだ。



そう、あれは、一番仲がいいと思っていた圭太が、圭太の妹と話しているのを見かけたときだ。俺と話す時より親密で、あれが家族の距離感なのだろう。圭太に一番近いのは妹なのだと、まだ小さかった俺は、圭太の妹に嫉妬したのだ。今思えば恥ずかしいことだけど、その時は真剣に嫉妬した。

今、零理に「優斗お兄ちゃん」って呼ばれた時、あの時見た圭太の気持ちが分かった気がした。



『零理。今、俺がお前に頼っていて、お前の背後霊で、なんだかとても情けないんだけど、でも、俺のことお兄ちゃんって呼んでくれてありがとう。弟ができたみたいで嬉しいよ。』

素直に気持ちを伝えると、

「僕も一人っ子でお兄ちゃんが欲しかったから、優斗お兄ちゃんみたいな優しいお兄ちゃんがいてくれたらよかったなって思ってた…。」

照れくさそうに零理が言った。


何だかくすぐったい。

俺、死んでから可愛い弟ができた。

弟にいいところを見せたい。


さっきまで、圭太に会ってどうするんだ?ってビビっていた気持ちが、スッと落ち着く。

『零理、このまま圭太の家の前まで行ってくれるか?』

「うん!優斗お兄ちゃん!」

零理は、嬉しそうにそういうと、一度止めた足を再び前へと進め始めた。


圭太に見えない俺は、話しかけても俺の声は圭太に届かない。そんな状態で、一体何が伝えられるんだ?

それでも、圭太に会えば何かが分かるかもしれない。

会いたい……。

そんなことを考えながら、小学生の零理の足の速度で、ゆっくりと圭太の家に近づいていく。


この角を曲がると圭太の家が見える。昨日は、ここまでしか来れなかった。でも、今日は昨日より前へ進む!そして、今できた弟に少しでも格好いいところを見せるんだ!



さあ、圭太の家へ!



果たして圭太はいるだろうか?

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