見えない玲央
玲央は、霊体だった。実体がなかった。どういうことだろう。
初めてのことで、零理は状況がつかめずにいた。
突然黙り込んだ零理の顔を
「零理?どうした?大丈夫か?」
と、心配そうに覗き込みながら、声をかけている。
圭太には見えてなかった。
だから、幽霊なんだろう。
でも、いつも僕が感じるものと何か違うんだ。
初めて会った時から、玲央は、そこにいるんだ。
この世に存在しているものと、同じ気配だったんだ。
「圭太さん。どうしよう。」
零理は、思わず圭太の腕を掴んでいた。
「どうした?零理?」
零理は、圭太の腕を掴む手にさらに力が入る。
「圭太さん。生きているのに生きていないって何?」
「え?」
突然訳の分からないことを言われて、圭太も焦った様子になる。
「零理、何言っているんだ、お前。大丈夫か?うちで少し休んで行け。」
いつも能天気なくらい明るい零理が、初めて見せる姿に、圭太はただならぬものを感じ、家へと連れて帰った。
圭太の家に着くと、まだ、誰も帰っていなかった。妹は、友達の家にお泊まりだと朝楽しそうに話していた。母親は、買い物にでも行っているのだろうか。
「ここに座って待ってて。」
圭太は、零理をリビングのソファに座らせると、2階の自分の部屋に行き荷物を置き、素早く着替えて、リビングに戻った。
冷蔵庫から、母親が作っておいてくれた麦茶を取り出すと、コップに注ぎ、零理の前に置いた。自分の分を零理の向かい側に置き、零理の真正面に腰を下ろした。
「零理、とりあえず、麦茶飲んで落ち着け。」
こくりとうなずくと、ランドセルを床に下ろした。それから、そっとコップを持ち上げると、こぼさないように注意しながら口元へ運んでいく。
その様子を見ていた圭太は、
零理って、案外振る舞いが上品だな。
と、どうでもいいことを思っていた。
「それで、何があったんだ。」
零理は、黙っている。
どうやって話そうか考えているようだった。
圭太は、黙って待つことにした。
零理は、また麦茶を飲み始めた。
麦茶を半分飲み終えたころ、零理が口を開いた。
「圭太さん。ありがとう。麦茶ごちそうさまです。」
「いや。落ち着いたかい?」
「はい。おかげさまで。」
零理は、時々とても大人っぽい。
「それで、何かあったのかい?話聞くよ。」
圭太は、とても優しく話しかけた。
零理は、圭太をじっと見つめる。何か言いにくいことを言おうとしているのであろうか。
「圭太さん。あのね。生きている人が、幽霊になることってあるの?」
唐突な質問に、圭太は驚いたけど、零理の真剣な様子に、小学生がこんなに考えて話し始めたことだから、ちゃんと答えてやろうと思った。
「幽霊は、死んじゃった人がなるものだろう?」
圭太が答えると、
「うん。死んで幽霊になるの。生きていても幽霊になれるの?」
なんでこんなことを真剣に聞いてくるのか分からなかったけど、とにかく零理が聞きたいこと知りたいことを教えてあげれば、零理は落ち着いていつもの零理に戻るのかもしれないと、圭太は、質問の意味を考える。
それってもしかして……?
「生き霊のことか?」
「生き霊?」
何かの糸口が見つかるかもしれない、そんな淡い期待が、零理の顔をよぎった。
「生き霊ってさ、生きているんだけど、何かの事情で体から魂が飛び出しちゃった人のことを言うんだよ。」
「生きているのに、体から魂が飛び出しちゃう人がいるの!?」
零理が話に食いついてきた。どうやら生き霊とかのことが知りたいらしい。
「幽体離脱とか、思いが強すぎてそれが形になって幽体になってさまよってしまうとか。」
「生きていても、体から魂が出てきちゃうことってあるんだね。」
「そう言われているよ。俺は見えないから本当かどうか分からないけど。」
「そっか。じゃあ、もしかしたら玲央は、生きているのに飛び出しちゃったのかもしれない。」
「れお?」
「ううん。なんでもない。圭太さんありがとう!!」
急に零理が元気になった。
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