幽霊も涙が出る!?
「さてと、せっかく来たからお説教も兼ねて、これから優斗に話します。って、声に出すと、やっぱり恥ずかしいな。」
人通りが少ない路地だからといって、全く人が通らないわけでもない。
チラチラっと後ろを見てしまう。誰かが通らないか気になって仕方がない。
でも、さっきの零理の言葉が、なぜか不思議と気になるのだ。
確かにそうだ。言葉にしなかったから、最後まで優斗に伝えることができなかった。
俺が、1人であの紙切れを見ていた時に、優斗がこっそり見ていたのに気がついていた。だからこそ、あの紙切れが俺にとって大切なものだと、優斗はわかってくれていると思っていた。でも、この紙切れがなんなのか、俺は優斗に話したことがなかった。何かもわからないものを見つめて、優斗が俺を見ていたことも伝えたこともないくせに、“見ていればわかるだろう”、それはなんて傲慢なことか。わかるわけがないんだって悟った。だって、俺も優斗が何を考えているのか、全てわかるわけじゃないんだから。
いなくなってから気づくなんてな。近くに…ずっと近くにいてくれたから、なんでもわかってくれてる、それが当たり前なんて思っていたんだ。あの時、八つ当たりしてしまってごめん。俺が落としたのが、そもそも悪かったと言うのに。
「ごめんな。優斗。」
優斗が拾ってくれなかったら、きっとすぐに捨てられていたはずだ。他の人から見れば、ただの紙屑に見えただろう。でも、優斗は違った。あの時息を切らしていた。俺が落としたのを見て、拾って慌てて届けにきてくれたに違いない、心の中で懺悔する。
そうだ、声に出さないと伝わらないんだ。
零理君が言ったことは、確かにそうだと納得できた。
声に出して言ってみよう。
優斗に伝わる可能性が少しでもあるのなら。
あたりをキョロキョロ見渡す。
「うん、誰もいない。」
人に見られたら、ちょっと恥ずかしいけれど。
「優斗。優斗は、あれが俺にとって大切なものだと思って、拾って届けてくれたんだよな。他のやつが拾ったら、ただのゴミだと思って即ゴミ箱行きだったと思う。いや、絶対そうだ。でも、お前は、拾って持ってきてくれた。それだけで、すごいことだったんだ。俺のことちゃんと見ていてくれてありがとう。本当にありがとう。俺が落としたのが一番悪いのに、お前全然悪くないのに、八つ当たりして、学校にも行かないで。そしたらお前死んじゃって。謝ることもできなかったじゃないか。馬鹿野郎…。」
つーっと一筋の光が、圭太の頬をつたって消えた。
「田中優斗は、俺の『永遠の仲良し』だ。俺が生きている限り、俺の中で優斗は生きる。俺の未来は、お前と見るって決めた。お前に恥ずかしくないように生きるから。一緒に未来を歩こうな。」
そう言うと、圭太はすっと立ち上がり、さらに声に出して言葉を続けた。
「ここへきたら、なんで俺を置いて先に行った!てめえは親父と一緒かよ!俺を1人にしやがって!とか、取り乱して、ひどいことを言ってしまうんじゃないかって思ってたんだよ。寂しくて寂しくて、お前を罵倒してしまいそうで怖かった。」
さっきまで電信柱に向かって話していた圭太の視線が、ゆっくりと電信柱の横に移動した。
「俺は弱い人間だから。でも、ここでお前と向き合ったら、そんな情けない俺はどこかへやらなければいけないと思ったよ。俺はちゃんと思いを伝えられただろうか。なあ、優斗。」
そう語りかけた先には、優斗が静かに立っていた。
『伝えられたよ。伝わったよ親友。俺の“永遠の仲良し”。お前の友達で本当によかった。』
頬に流れ落ちる感覚が伝わってきた。
実際に涙が出たのかどうかは分からない。
でも、優斗は、確かに泣いていたのだ。
『幽霊も涙が出るもんなんだな。』
優斗は、馬鹿みたいなことに感心していた。
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