第15話 のっぺらぼう

「いらっしゃいませ~」

「…………」

 その妖怪を初めて見た時、俺はぎょっとしてしまった。

 顔がなかったからだ。

「のっぺらぼうだね」

 綾さんが店の奥から言った。

 ああ、そうか。それなら俺も知っている妖怪だ。

 のっぺらぼうは紙とペンを携帯しており、何か書いて、俺に見せてきた。

『目が見えません』

 よく見ると、目の見えない人が持っている白杖をついていた。

 目が見えないので、字はたどたどしいが、ギリ読める。

『でも、えほんがよみたいです』

 目の見えないのっぺらぼうに、どんな本を進めるのがいいのか。

 俺は数刻、思案して、ひらめいた。

「確か、この辺りにあったはず……」

それは点字で書かれたバリアフリー絵本だった。

のっぺらぼうは目、鼻、口はないが、耳はあるので、俺は本が見つかった旨を伝えた。

「宮沢賢治の『注文の多い料理店』という絵本です。きっと面白いですよ」

『ありがとうございます』

 目が見えなくても楽しめる本があるっていいなあ。


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