第7話 ふた口女

今日も、あやかし古書店にはお客様がやって来る。

 

「こんばんは」

「いらっしゃいませ、こんばんは」

 長い髪でニット帽を被った女性が来店した。

「私、料理が趣味でして、新しいレシピ本が欲しいなって思いまして」

 レシピ本といっても、初心者用から上級者向けまで、種類は様々だ。

 しかも、この店はレシピ本コーナーなどなく、夏目漱石の隣に「カンタンお菓子作り」なんてものが置いてあるのだ。

 俺がたまに整理しているとはいえ、新しい本が乱雑に並べれらる。

探し辛いこと、この上ない。


「こっちの口が相当なグルメでして……」

ニット帽を捲ると、後頭部に、もう一つの口があった。

「ふた口女だね。後頭部の口は傷口。食べ物を入れると、不思議と痛みは治まる」

 店の奥から店主の綾さんの声がした。

「ふた口女さん、グルメというと、どのくらい」

「もう、日本料理には飽きたくらいでして……」

「でしたら、こちらはどうですか?」

「料理世界一周! 世界の料理ですね! これは良いです! ありがとうございます!」

 これでまた、更にグルメになってしまうな……。


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