第8話 雪女

「いらっしゃいませ~」

 そのお客様が入ってきた瞬間、冷気が漂い、寒気がした。

「さむっ」

「申し訳ありません。私の特性でして」

 目の前に白い着物を着て、透き通るような白い肌をした女性が立っていた。

「この冷気は雪女だね」 

 綾さんが店の奥から声をかける。

 雪女といえば、小泉八雲の『怪談』にも登場する有名な妖怪だ。そこでは人間の男と夫婦になった雪女が出て来る。別れねばならない最後の終わり方が切ない話だ。

「私、雪女なのに、冷え性でして、いつもカイロが手放せないんです」

「それは大変ですね」

「今回は、せめて心だけでも温かくなろうと思って、心が温かくなる話を探しているのですが」

「感動する系ですね。分かりました」

 俺は心当たりがあったので、すぐにその本を持ってきた。

「羽鳥まりん先生の『ギフト』という本はどうですか? 去年のベストセラー賞にもなったんですよ。家族愛をテーマにしていて、読後は温かい気持ちになれるんです」

 羽鳥まりん先生は近年デビューした新人作家だ。覆面作家で、顔も性別さえも不明なミステリアスな存在だ。

「ありがとうございます。家族愛、良いですね。私も別れた家族のことを考えながら読もうと思います」

 この本が少しでも慰めになってくれることを願う。

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