第32話 本の仕入れ②
「レン、七緒、今日は仕入れに行ってもらうよ」
「は~い」
「前に、こち亀201巻が一気に売れただろう。棚埋めのためさ」
以前、神田の古本市で本の仕入れをやったことがあるが、また開催されるのだろうか。
「今回は個人の家を回って本を回収していってもらうよ。はい、これリスト」
綾さんから渡されたリストには住所と名前が書いてあった。
「本を手放す理由は引っ越しとか断捨離とか遺品整理とかだね」
「そうなんですか」
俺は本を手放したことがない。
上京の際、実家から、好きな本を選りすぐって持ってきたが、その時に本を処分しようなんて欠片も思わなかった。
「じゃあ早速、私の車で行きますか!」
「七緒さん、車なんて持ってるんですか?」
「持ってるよ~。ワゴン車だから、いっぱい入るよ」
七緒さんの車は銀色で、特にぶつけた跡もなく綺麗だった。
「さあ、乗って乗って」
俺は車の助手席に座ると、七緒さんは住所のリストの一番の上の家に向かった。
「すみませ~ん、あやかし古書店です。本の回収に参りました」
インターホンを鳴らして、七緒さんが呼びかける。
「は~い」
出てきたのは普通の女性だった。
家に入ると、いくつもの段ボールが積みあがっていた。
女性は「本」と書かれた段ボールを2箱持ってきて俺達の前に置いた。
「これです」
「じゃあ査定していきますね~」
査定とは本に値段を付けていくことだ。
俺はまだやらせてもらえてない仕事だった。
「良かったら、お茶どうぞ」
「ありがとうございます」
俺が手持無沙汰なのを気付いて、女性は話をしてくれた。
「仕事を辞めて、実家に帰るんです」
「そうなんですか、ご実家は何処に?」
「青森です」
「遠いですね」
「ええ、実家からお見合いでもして結婚しろと五月蝿くて」
「結婚するんですか?」
「さあ、まだ分かりません」
そうこうしてる内に査定が終わり、俺達は次の家へ向かった。
次の家は断捨離をするために本を手放すという男性だった。
「ハウツー本を沢山買ったのはいいんですが、買って満足してしまいましてね。あまり読んでないんです。そんなんだから、俺はまだ全然うだつの上がらないっていうか」
「そうなんですか」
俺はハウツー本の類は、ほとんど読まなかった。
「あ~、真葛社長のサイン本あるじゃないですか!」
査定をしていた七緒さんが声を上げる。
「ええ、彼の考え方がいいなって思って……」
「バラエティでもコメント冴えてますもんね」
「はい、でも俺には真似できないなって……」
次の家は亡くなった祖父の遺品整理とのことだった。
本棚にはびっしりと本が並んでおり、持ってきた段ボールに入るかなと不安になった。
俺が本を取り出して、七緒さんが一冊ずつ査定する。
「あっ、これ、宮沢賢治の! しかも初版⁉」
「わっ、レアですねえ」
亡くなったお祖父さんは、余程の文学少年だったらしく、他にも志賀直哉や太宰治、坂口安吾などの全集が揃っていた。
「祖父は熱心な読書家でしたが、私は全く本を読みませんで……」
お孫さんが申し訳なさそうに言う。
「では、これで査定は終わります。ありがとうございました」
その後は新しく入った本で棚を埋めて、本日の業務は終了した。
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