第13話 鬼

「いらっしゃいませ~」

「こんばんは」

 今回のお客様は分かりやすい。

 頭に二本の角が生えていて、虎模様のパンツを履いている。

 鬼だ。こてこての鬼だ。

「何か、お探しですか?」

「そうですね。良い鬼が出て来る話とか……」

「良い鬼ですか」

「はい。いつも私達、鬼は悪者として描かれてきました。古くは酒呑童子退治絵巻、近年は桃太郎の悪役。そういえば、最近、近所の子どもから何とかの呼吸・壱の型とか言われて追い払われたこともあります。あれは何だったのでしょうか?」

「ああ、鬼滅の刃ですね。今流行りの漫画です」

「そうだったんですか」

「それで、良い鬼が出て来る話ですよね。……『泣いた赤鬼』とかはどうでしょうか?」

 俺は絵本コーナーから一冊持ってくる。

「泣いた赤鬼? 鬼がいじめられるのでしょうか?」

「いえ、そういう訳ではなく……。とりあえず読んでみてください」

 鬼は、その場で絵本をパラパラと捲る。

「あ、ああ……」

 最後、青鬼が赤鬼のことを思って去っていく場面で涙を流す。

「切ないですけど、良い話ですね。この絵本、買っていきます」

「はい、ありがとうございます」


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