第3話 うぶめ
綾さんから渡されたシフト表を見る。
俺は基本的に昼勤務だが、金曜の夜だけは夜勤務がある。
「金曜夜って固定なんですね。七緒さん、何か予定でも?」
「ロードショーとか見たいからね」
何だ、そんな理由か、と思った。
金曜日、17時55分。
早めの夕食を簡単に済まし、俺は、あやかし古書店に到着した。
「よろしくお願いします」
「はい、よろしく」
「じゃ、頑張ってね」
七緒さんがバイトを上がって帰っていく。ロードショーを見に行くのだろう。
いつも通り、化け蛙のオトさんが来店する。
夏目漱石を順調に読み進めているようだ。
オトさんが帰って数十分が経った頃。
白い着物の女性が来店した。赤ん坊を抱いていた。
よく見ると、腰巻が血に染まっている。
「あの、大丈夫ですか?」
「ああ、これですか。仕様ですので。痛くはありませんのよ」
「そうですか」
「彼女はうぶめ。難産で死んだ女性の霊が妖怪化したものさ」
綾さんが教えてくれる。
うぶめさんは店内をキョロキョロと探した後、俺に話しかけて来た。
「この子に読んであげる絵本を探しているのですが……」
「絵本ですか……」
初めてのリクエストだ。この乱雑な並びの書棚から絵本を探し出すのは難しいように思われた。そもそも絵本なんて置いてあるのだろうか。
お客様である、うぶめさんと一緒に探す。
「綾さん、ここ絵本なんて置いてあるんですか?」
「あるよ。少ないけどね。探してみな」
「手伝って下さいよお」
「頑張れ。これも仕事だ」
十数分探し回って、やっと見つけたのは「夢水四季」とかいうトンチキな作家の絵本だった。
題名は「ヌートリアは悪くない!」。何だ、これは。
「あの、こんなのしか見つからなかったのですが……」
「大丈夫です! ヌートリア面白そうじゃないですか!」
「えっ、これでいいんですか?」
「はい!」
確かに、表紙の絵はポップで面白そうといえばそうかもしれないけれども……。
うぶめさんは「ヌートリアは悪くない!」を買っていった。
楽しんでくれるとよいが……。
「綾さん、もっと定番の絵本を入れた方がいいんじゃないですか?」
「そうかねえ……。まあ考えておくよ」
「よろしくお願いします」
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