第25話 あけましておめでとうございます。

あやかし古書店には年末休みがない。

 それは人間の暦通りに行動しない妖怪が多いからだ。

 俺も今年は実家に帰らず、東京の家で過ごすので、年末年始も、あやかし古書店のシフトを入れていた。

 今年最後の夜開店では化け蛙のオトさんを始め、色々な妖怪に「良いお年を」と挨拶をした。

 すると大抵の妖怪は「ああ、もう年末だっけ」という風に惚けた返事をしてくる。

 人間の暦通りに生活をしないというのは本当のようだ。


 大晦日。

 店主の綾さんと交代で入った七緒さんに年末の挨拶をして、俺は帰途に着いた。

 途中でコンビニに寄って、年越し蕎麦のカプ麺を買っていく。

 家に着いて、紅白、そして「ゆく年くる年」を見ながら蕎麦をすする。

 一月一日になった瞬間に、友達や仲間達から「あけおめ」メッセージが届く。

 その返信をしつつ、一月一日の夜は過ぎていった。


 その日の昼。

 俺はバイト先のあやかし古書店に行った。

「レン、妖怪達から年賀状が届いているよ」

「えっ、年賀状?」

 まさかもらえるとは思ってなかったので、驚いてしまった。

「そうさ。まあ読んでみな」

 一枚目は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を薦めた河童からだった。銀河鉄道の上手な切り絵が目を引いた。『銀河鉄道の夜』を面白かったと書いてあって嬉しかった。

 二枚目は世界の料理本を薦めた二口女からだ。自分が作ったと思われる料理の写真と共に、料理のレパートリーが増えたことのお礼も書かれている。

 三枚目は常連・化け蛙のオトさんからだ。達筆過ぎる字で、綾さんと一緒に解読すると、いつも文豪の本をおススメしてくれることへの謝辞と、これからもよろしく頼むというようなことが書いてあった。

 こんな心温まる年賀状を貰えて自分は幸せ者だなと思う。


 皆さんも、あけましておめでとうございます。


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神田神保町あやかし古書店 夢水 四季 @shiki-yumemizu

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