第16話 絵本を買いに

「いらっしゃいませ~」

 あやかし古書店を訪れたのは小さな男の子だった。

「狐が出てくる絵本を下さい」

「はい、分かりました」

 狐が出てくる本か……。

 俺は真っ先に「ごんぎつね」が思い浮かんだが、これはラストが悲しいので、もう少し考えてみることにした。

「あっ、そうだ! 『手袋を買いに』なんてどうですか?」

 これなら心温まる良い話だ。

 男の子は表紙の狐の絵を見て、にっこり笑うと「これにします」と言った。

「ありがとうございます。330円です」

 男の子がお金を握りしめて差し出した手は、人間の手ではなかった。

 狐の手、かな? まあ、あやかし古書店だから狐の妖か。

子狐は嬉しそうに店を出て行った。

ふと、お金が乗ったトレイをみると、木の葉が3枚とドングリが3つ置かれていた。

「あ、あれ? お金が変わってる?」

 もしかして狐に化かされたのか?

「綾さ~ん! お金が!」

「やられたね。この世界、化かされる方が悪いのさ」

 今後、気を付けよう。

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