第19話 キジムナー

「いらっしゃいませ~」

「はいさい!」

 赤茶けた肌にボサボサの髪、腰蓑を巻いただけの格好の男の子がいた。

「キジムナーだね」

 店の奥から綾さんが教えてくれる。

 キジムナーか、初めて見た。確か、沖縄の樹木の精霊だったかな?

「はいさい」というのは沖縄の挨拶だろう。

 でも何で沖縄の精霊が東京に?

「多分、沖縄の木が伐採されて、それに付いてきたんだろうさ」

 綾さんが俺の心を読んだように疑問に答える。

「やさやさ(そうそう)」

 キジムナーは大きく頷く。

「それで、今日はどんな本をお探しで?」

「ゴーヤーチャンプルー! ゴーヤーチャンプルー!」

「どうやら故郷の味が恋しくなったようだね。沖縄料理の本を探しておやり」

 綾さんがキジムナーの言いたいことを通訳してくれる。

「えっと、沖縄料理の本は……」

 俺はレシピ本のコーナーにキジムナーを案内する。

「これとかどうですか?」

 俺は「おいしい沖縄料理」というゴーヤーチャンプルーが表紙の本をキジムナーに渡した。

「にふぇーでーびる(ありがとう)」

 キジムナーが頭を下げる。

「はい、550円です」

 キジムナーが腰蓑から小銭を出す。

「ん」

「お預かりいたします」

「んじちゃーびら(さようなら)」

「ありがとうございました~」


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