第5話 河童

「いらっしゃいませ」

「早く選ばないと選ばないと」

 どう見ても河童だ。急ぎの河童だ。

 本にとって水は大敵だ。なので、河童は古書店に入る前に身体を拭き、頭の皿の水が乾くまでの間に本を選ばないといけない。

「良かったら本を選ぶのをお手伝いしましょうか?」

「ありがとう。よろしく頼むよ」

「どういう本をお探しですか?」

「心にビビッと来る本なら、どんなジャンルでも歓迎さ」

 これは難しいなと思った。

「これと、これとかどうですか」

 二、三、適当に見繕ってみたが、河童は首を振った。

「君はどんな本が好きなんだい?」

 河童からの逆質問だ。

「えっと、俺は純文学が好きですけど」

「なら君のおススメの本を買っていこうとしようか」

 俺のおススメの本か……。読みやすいのといえば……。

「ハッピーエンドじゃなくてもいいですか?」

「別に大丈夫だが、それはネタバレだね」

「すみません」

「まあ、いい。その本を頼む」

 俺は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を手渡した。

「宮沢賢治か、いい趣味してるね」

「ありがとうございます」

 河童は「銀河鉄道の夜」を買っていった。

 

 あの河童にもジョバンニとカムパネルラの旅路を見守ってほしい。


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