第10話 付喪神

今日も店番をしていると、カチャカチャと音がした。

 お客様かなと思ったけど、誰もいない。

「おーい、ここだよ」

 足元を見ると、茶道で使うような湯飲みがいた。

「茶器の付喪神だね」

「ああ、古い道具に魂が宿った妖怪のことですね」

「そうさ」

 茶器だけど、この人もお客様だ。

「いらっしゃいませ」

「よう、こんばんは」

「はい、こんばんは」

「ちょっと見させてもらうよ」

 茶器はカチャカチャと音を立てながら移動する。

「おーい、そこの本を取ってくれ」

 俺は太宰治の『走れメロス』を茶器の目の前に出す。

「そう、それだ」

茶器は息を吹きかけて頁をめくった。

手がないのに、口があるのが不思議だ。

「メロスの走っている場面がいいね。これを買っていくよ」

 いつの間にか茶器の内側の部分に小銭が湧いていて、それを受け取った。

「ありがとうございました」

 茶器は口縁の上に本を乗せて、持って帰った。

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