第3話
社内不倫をして不倫相手が妊娠してしまった部下の鈴木くんは、奥さんと別れて不倫相手の中村さんと結婚した。
こんなにあっさり離婚して結婚できるものなのね・・・。子どもを授かるということは、それほど大きなことなのか。
中村さんは一応寿退社し、メンバー補充の依頼を人事採用課にお願いした。
「社内不倫しない人材を是非・・・」
「そればかりは何とも。ああいったことは島田さんのとこだけじゃないので気を落とさないでください。社員個人のモラルの問題ですから。」
他の部署でもあるんだ、、、。仕事しに来てるのに、どうして会社でそういうことをするのかしら。
深呼吸をしてデスクに戻ると、すぐに上司の飯田部長から呼び出された。指定された会議室にはすでに飯田部長と、海外事業本部の佐野常務、田川部長が待ち構えていた。
海外事業部のメンバーがいるなんて聞いていなかったので、驚いた。
「申し訳ありません、お待たせしてしまいましたでしょうか。」
「そんな、恐縮しないで下さい。こちらが突然お呼びだてしましたから。さぁ、そちらの席に。コーヒーはブラックでいいですか?」
田川部長自らコーヒーを淹れていただいて更に恐縮してしまう。
「恐れ入ります・・・。あの、お話というのは・・・。」
何故この三人に呼び出されたのか。
私が所属している部署は国内自社向けのシステム部新規開発課なので、海外事業本部とは縁遠い。
「もうすぐマレーシアで立ち上げている工場の稼働が始まるんだが、現地で発注していたシステム開発が全然進んでいなくて、なんとか島田さんにご協力をお願いしたい。背水の陣で飯田さんに相談させて貰ったんだ。」
「一時的なプロジェクトという形になるんだけれど、数ヶ月単位での現地滞在が必要になる。島田さんの今のポジションのフォローは私が行うから、何とか前向きに検討して貰えないだろうか。」
佐野常務と飯田部長に真剣に見つめられて説明を受ける。マレーシアか・・・。行ったこと無いな。英語通じるのかな?
「あの、お声掛けいただけるほどの評価はとてもありがたいのですが、言葉のところが不安です。長期滞在については特に問題ないのですが。」
静かに様子を伺っていた田川部長がパッと笑顔になった。
「それなら大丈夫です。私の部下が駐在してますし、できる限り島田さんの通訳とフォローをさせますから。本当に困っていて、何とかお願いします。」
頭を下げられ、また恐縮してしまった。
「そんな、頭をあげてください!・・・分かりました。期間はおおよそどのくらいでしょうか。飯田さん、今受け持っている業務の調整をさせてください。」
三人ともほっとした表情になる。期間は来週から六ヶ月間とのことだった。
「本当にありがとう。あなたがいてくれてよかった。」
「まだ、お礼はプロジェクトが成功してからです。よろしくお願いします。」
海外事業部の二人と握手を交わす。これもいい経験になるはず。
今の私には仕事しかないし、必要とされるのであれば出来る限り応えたい。
あっという間にマレーシアへ発つ日が迫り、新規開発課のメンバーが激励会を開いてくれた。
「島田さん、頑張ってください!」
「鈴木くんも、家族が増えるんだし、ますます仕事にも精を出して頑張ってね!私が戻ってくる頃には目を見張るくらい成長しておいてよ?」
鈴木くんは飯田部長に肩を叩かれ、「私が教育するから。ね!」と軽く睨まれる。飯田部長は愛妻家で、鈴木くんのことが気に入らないらしい。
「お待たせしました、フライドポテトです。」
そういえば、ここはかなたくんがバイトしている居酒屋だ。でも、彼の姿は見当たらない。
別に関係ないけど。
激励会はお開きになり、二次会もなく解散となった。食事代は飯田部長が経費として精算してくれた。
みんなに挨拶をして別れ、横断歩道の信号待ちをしていると、声がかかった。
「あの、すみません。かなたの知り合いの方ですよね?」
「え?は、はい。まぁ、、、。」
さっきのお店のバイトの子のようだ。
「あいつ、お姉さんを追いかけていった直後に店辞めちゃって。理由を聞いたら、ブロックを外して貰いたいから、って言ってました。ちょっと僕には意味分かんないんですけど、真剣な目だったので。それだけ、伝えておきたいと思って。じゃあ、店戻るんで。」
彼はすぐにお店に入って行った。
え、かなたくんは私の言葉を受けてバイトを辞めたってこと?
自分には関係ないと思いながらも気になってしまう。大丈夫かしら。なんで辞めたんだろう。
寝る前、スマホの画面を見てため息をつく。
どうしてアルバイトを辞めたのか聞いてみようかな。
でも、私には関係ないし。事実かどうかも確証はないし。
いいや、もう、考えるのやめよう!
そしてマレーシアに渡航する日を迎えた。
長期の出張ということで、荷物をトランクルームに詰め込んでアパートを解約した。
そろそろ引っ越そうかと思っていたし、前向きに考えることにした。
平日ということもあり、空港での見送りには誰も来なかった。
搭乗手続きを終え、8時間弱のフライトに臨む。
現地語のマレー語の参考書を読んでいたら眠ってしまっていて、着陸のアナウンスで目を覚ました。
久しぶりにこんなにちゃんと寝た!
離陸前よりも気分がかなりスッキリしたからか、自然と笑顔になる。
入国手続きと荷物のピックアップを終え、到着ロビーに出ると、私の名前を大声で叫びながらぶんぶんと手を振る、物凄く目立っている男性が待ってくれていた。
「片桐さん!迎えに来ていただいて、ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
「お待ちしてました!ウェブでは何度もお話ししましたが、初めましてですね。少し長丁場ですが、全力でサポートしますのでご安心を。」
マレーシアに駐在している片桐さんは、気さくで飾らない感じの、ひとつ上の先輩だ。
片桐さんはコンドミニアムにお手伝いさん付きで住んでいるらしいが、今日から私は少の間だけれど、憧れのホテル住まいとなる。
仕事のメンバーとか、状況とか、不安な点はたくさんあるけれど、頼れる先輩のお陰で新しい環境にも心が弾んだ。
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