トラウマの正体⑥
明けて、翌日。
重くなった頭と体に鞭を打ち、何とか会社まで辿り着くことが出来た。
昨日の今日で、どの面下げてという感じだが、残念ながらそれが社会人としての宿命なのだろう。
オフィスに入ると、騒ついた雰囲気が俺を迎え入れた。
まだ就業時間前だというのに、何故か皆落ち着きがない。
普段であれば、コーヒーを片手に最近買ったバッグの自慢だの、昨日の合コンの愚痴だのを呑気に話している事務の女性スタッフも、今日ばかりは神妙な顔つきでデスクに座っている。
俺の出社に気づいた飛鳥は、血相を変えこちらに近づいてきた。
「近江さん……」
「お、おう。おはよう」
「経理部長が……、亡くなったそうです」
俺の予感は思わぬカタチで裏切られた。
自室で首を吊っているところを今朝家族に発見されたらしい。
『きっと後悔するぞ』
……自業自得だ。
仮に俺が告発しなくても、捜査が入った可能性は十分あるだろう。
そうなったら、アンタはどうしていたんだ?
気付けば、俺はまた自分自身に言い聞かせていた。
「経理部長、何があったんですかね……」
「……さぁな。分からん」
お前は知らなくていい。
お前はこんな会社に足を引っ張られる必要はない。
「……そうですか。ですよね、すみません」
それだけ言うと、彼女は自分のデスクへ戻っていった。
朝から嫌な気分だ。
経理部長の死を嘆く数人の社員の嗚咽が、『お前のせいだ』と言わんばかりに俺の心を掻き乱してくる。
俺は逃げるようにオフィスから離れ、投資先とのアポイントへ急いだ。
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