暗雲
「これは一体……」
久慈方さんの手引きにより、機構本部に転移したのは良いが、施設全体から漂う物々しい雰囲気に俺たちは気圧されていた。
本館の玄関口だけでなくそこかしこに配置されている警備員、大量の書類を処分したと思われる焼却跡、そして何よりも久慈方さんの動揺した様子を見れば、初めて来た俺ですら平時のソレでないことは理解できる。
「随分と物騒な雰囲気だな。俺、殺されんじゃねーの?」
「まさか……。とにかく話を聞いてみましょう」
久慈方さんは、正面玄関の脇に立っている警備員の一人にこっそりと近づき、話しかけた。
「あの、何があったんですか?」
「理事長!? 申し訳ありません。決して口を割るな、と言われているので……」
「そんな……。あの、ここを通してくれませんか?」
「すみません。お通しできません……」
警備員は、心底申し訳なさそうに言う。
どういうことだ?
コイツらは誰の指示で動いているんだ?
俺としても腑に落ちないので、久慈方さんに加勢することにした。
「おい、理事長命令より優先させるモンって何だよ? 浄御原から言われてんのか?」
「それは……、答えられん」
何か弱みを握られているのか。
下の立場としては、長い物に巻かれるしか選択肢はないのだろう。
やはり、浄御原に直接話をつけるしかない。
「理事長。これ以上ここに留まるようでしたら……」
「……分かりました。その、色々迷惑をかけたみたいで申し訳ありません」
「おやめ下さい。あなたが謝る必要はありません……」
警備員は力なく答えた。
もはや、これ以上は時間の無駄だろう。
「近江さん、行きましょう」
「あ、あぁ」
俺たちは機構本部に入ることを諦め、当てもなく歩き始めた。
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