初めての職務質問

「遂に援交属性まで追加されちまったな……」


 人生初の職務質問は10分程度であったが、永遠のように感じた。

 出来ることなら、最初で最後であって欲しい。


「いやー! 一瞬でも女子高生に見えてしまって申し訳ありません!」


 だから嬉しそうにすんな。

 実際、浄御原のヴィジュアルは整ってはいるが、どちらかというと大人っぽいキレイ系だ。

 ただまぁ……。決して老けて見えるわけではないので〝女子高生〟だとゴリ押しされれば勢いで納得させられてしまう。その程度だ。


「んじゃもう早いとこ、殺人鬼の〝俺〟とご対面と行こうぜ。もう十分イロイロと疲弊したからな」

「分かりました。それでは失礼します」


 次はどんな嫌がらせが待っているのだろうとビクビクしていたが、さすがにこの展開は予想していなかった。


 俺の唇から浄御原の唇が離れた瞬間、彼女の顔は真っ赤になった。


「……どうして気絶しないんですか?」

「いや……、さすがに動揺はしているが」

「童貞のクセに……」


 俺を童貞と踏み、キスで気を失うと計算したのだろう。

 狙いが外れた彼女は俺を睨みながら、鳩尾に右フックを決めてきた。

 お前が自爆しただけなのに逆恨みにも程がある。

 薄れゆく意識の中で、思った。

 きっと彼女は、本来そんなキャラクターではないのだろう。

 無理をするからこうなる。俺が。


  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


「とりあえず、だな。当然のようにラブホにいることについては、もういい。今度こそ成功したんだろうな?」


 彼女と過ごす3日目の夜。

 すっかりお馴染みとなった一連の流れの中に、緊張感などといった高尚な三文字はどこにも見当たらない。

 浄御原に至っては、大人向けの映像作品でお馴染みの電動マッサージ器で肩をほぐしながら、備え付けのティーバッグで入れたお茶を啜っている。

 かくいう俺も、キングサイズのベッドに寝そべり、スマホを適当に弄りながら話しているので、オアイコと言えるのかもしれない。

 

「それは分かりません。まだ〝近江さん〟と会っていませんから」

「ちょっと待て! じゃあ今まで勘で転移してたってことか!?」

「ですから言ったじゃないですか。手引きは苦手だって」


 と、衝撃の事実を彼女は何の悪びれもなく答えた。

 この調子だといつまで掛かるか分からんな。


「とは言っても、ある程度当たりをつけてはいるんですけどね」


 そう言われてみれば、確かに納得は出来る。

 今まで会った〝俺〟は、いずれも4年前のをきっかけに分岐した可能性だったわけだ。


「……まぁ、それは分かるよ」

「私が未熟なばかりに……。申し訳ありません」


 浄御原は、何故かいつになくしおらしい態度で謝罪してくる。

 そう素直に謝られると、こちらとしても調子が狂うというものだ。


「でも、近江さんも何か思うところがあったのでは? あなた自身の可能性について」


 そりゃ嫌でも考えさせられる。正しい道を選べているのか。

 どの世界線の〝俺〟もそんな確信を持っていなかった。


「まぁな。でもそれを他人に言われるのは腹が立つ。特にお前」

「それは失礼しました。では今日はそろそろ解散にしましょうか」

「そうだな。お疲れさん。あと明日は常識的な服装で頼む……」

「承知しました」


 本当に分かったのかどうか怪しいが、今日はもう色々と疲れた。

 俺はそのまま床に就いた。

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