高級官僚
理事長室は、今俺たちがいる本館の最上階にある。
本館には、各幹部の個室、応接室や会議室、マイナーの特典保持者の名簿が保管されている書庫などがある様だが、思いの外各部屋の警備が手薄だ。
監視AIの本端末が収容されている別館に人員を割いているのではないか、というのが久慈方さんの見立てだが、実際のところは分からない。
俺たちを追ってきた職員のことも考えると、ある程度人員を分散しているのは間違いないだろうが。
そういった状況も手伝い、何とか俺たちは監視の目をすり抜けながら、最上階と屋上を繋ぐ階段の踊り場まで辿り着くことが出来た。
この踊り場に面した廊下を左に曲がり、3つ目の部屋が理事長室らしい。
しかし、ここまでスムーズに進めてしまうと、敢えておびき寄せられているのではないかと勘繰りたくなる。
まぁ、邪魔が入らない分には助かったが。
「問題はここからだな……」
「浄御原さんに会いたい、と言えば通してくれるでしょうか?」
「それで通じたら、端から警備なんか置かんだろ」
「ですよね……」
踊り場の物影から理事長室を覗くと、警備員というよりも軍隊とも言えるほどに厳重な装備を身に纏った職員2名が行く手を阻んでいた。
あちらの本気度が窺える。実力行使をしようにも、こちらとの戦力さは明白だ。
見つかればすぐに拘束されてしまうだろう。
理事長室へ入る決め手を掴めぬまま迷っていると、突如低く威圧的な声が後方から響き、思考を停止する。
「久慈方……。お前こんなところで何している?」
「し、新加さんっ!?」
声の主は、俺たちの目的とする人物の一人のようだ。
色白で線が細く、高身長。
スクエア型の眼鏡の奥から覗かせる瞳は、俺たちを蔑むかのように見下ろしている。
まさに頭の中で思い描く有能な高級官僚のイメージそのものだ。
急な呼びかけに一瞬怯んだ様子を見せた久慈方さんだったが、次の瞬間には表情を整え本題を切り出した。
「……お久しぶりです。あの、色々とお聞きしたいことがあります」
彼女はただ率直に用件を伝えた。
それを見た新加はハァと深い溜息をつき、呆れた様子で彼女に応じる。
「……来い」
ただ一言そう言い残し、理事長室へ向けて歩き出した。
俺と久慈方さんは互いに目配せをし頷き合った後、彼の後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます