24.「ディスイリュージョン」-5
「人皮装丁本は流石にジョークだ、グイドニス様。
「合理的に考えましょう、ベルナ嬢。あれが本当に人皮でしたら、カロルがデザートにして、とうにおいしく召し上がっていたはずです。鶏皮みたいにカリカリに焼いて」
「……そういう事にしますのでもう二度とこの話題を持ち出さないで頂きたい。そして具体的な料理法はもっと言わないでください。想像してしまいます」
乱心したベルナがしきりに暴れた後、カロルのヒステリックな笑い声を背に、三人は文芸部が使用している建物から退散した。
口ではロザリアスとグレゴリアの言い訳を鵜呑みにしているが、ベルナには見て見ぬ振りが出来ない物もあった。
それは退室前にチラッと目に入った、地面に破棄されていた紙屑の一つだった。
一部しか読めなかったが、《
即座に、ベルナは『カポネの冒険』を思い出す。
《
《
ギルドの裏の部分を堂々とベルナに見せて、何の得があるのだろうか。
何はともあれ。
最後まで自分の目で確かめ、その後判断を下すしかない。
「次の部活は園芸部。部の福利厚生が豊富であり、のどかな雰囲気が人気な部活だ」
住宅区から少し離れ、一行は農園らしき施設に訪れた。
人が日常的に行き来する建物群のほぼすぐ隣に、畑。
都市企画としてめちゃくちゃに見えるが、地盤と建物の残骸を利用した低コスト高収益のプランとして考えると、意外と悪い案ではないのかもしれない。
一面の緑が、昨日から連続して《
生気を強く発しながら、そよ風に吹かれては静かに揺らぐ牧歌的風景は、この殺伐としたファデラビム内ではゆめまぼろしのように感じられた。
緑の中、黄、赤、白と慎ましやかな色彩も存在している。野菜的な何かだけでなく、どうやら間隔を空けて、観賞用の花も育てているようだ。
《
ファデラビムの環境を考えるに、お花屋さんが生存できるスペースは絶無と思われる。
なので必然的に、園芸部は自然の薫陶を冒険者に授けるための、実益よりも精神的な収穫を重んじる活動だろう。
自分で育て、自分で食し、自分でその美しさを眺める。究極的には、人間の正しい生き方だ。
従妹であるあの方が手がけた薔薇園を思い出す。二人にとって大切な思い出の一つだ。
王都に戻ってからも、その趣味を継続しておられると嬉しいのだが、あの方も多忙な身。学園に通っていた頃のようには、いかないだろうな。
「あっと」
園芸部が作り出した眺めに目を奪われたせいで、うっかりと路傍の看板にぶつかりそうになった。
自分の進路を阻んだ看板に書かれた文字をなんとなく読むベルナ。
「他人が植えた物に手出す輩、植えられる覚悟ありと見なす」
…………《
まあ、もっと幼い頃、興奮状態の時口を滑らせて「ぶっころしてやる!」と出来もしない事を騒ぎ立てた経験なら、流石のベルナも持っている。
《
「ん?あれ……は?」
目を凝らせば、まばらに散りばめられている種類豊富な色んな種族の若者が、農園のあちこちで汗水を垂らしながら働いていた。
「冒険者、には見えませんが」
「ああ。あれは我が君の一大功績だな」
一瞬、ロザリアスの顔に芝居がかった表情ではなく、本心からの笑みが垣間見えた気がする。
自慢げで、そしてどことなく寂しさが混在している、そんな面持ち。
「持たざる者をそれなりに好条件で雇用しているのだよ。難民とかを、ね」
「就労機会の創出っ!」
農業に勤しむ人々の充実そうな表情を見て、ベルナは小躍りしていた。
「慈善の一環、でしょうか。規模からして私が視察に来る前に急遽拵えた見せかけの成果ではないのは明らかです。これは流石に私も《
「慈善、か。なるほど。外から来る人間にはその程度に見えるのだな」
「え?私、何か心得違いを?」
歯切れの悪いロザリアスの反応は、ベルナにとって予想外であった。
「ベルナ嬢。ファデラビムで、通常の人間社会のにとっての正常な営みを成り立たせるのは、元来果てしなく難しいのです」
両手を腹の前で握り合い、グレゴリアは追加の説明を始めた。
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