51.ぐだぐだのハッピー(バッド)エンド。
と、まあそんなわけで、
「やっぱり私がふがいないせいで起こったトラブルだし……だから、私に出来ることで何があるかなって思って聞いたらこれくらいで……」
「漫画研究会を作りたいって言ったの?こいつが?」
指さす俺に対し、小此木は縦に頷く。
「まあ、部活動設立するだけなら、別にいいけどな、面倒ごともないだろうし」
そう言いつつ、俺は改めて差し出された紙を見る。そこには確かに部員メンバーの名前として四人分の署名がある。そして、一枠だけ。俺がサインできる欄がしっかりと空いている。俺はそこに名前を書くだけでいい。別に借金の連帯保証人か何かじゃないんだ。難しく考える必要性はない。その横に「部長」という文字が無ければ、の話だが。
「……え?俺、部長なの?」
「えっと、出来れば」
「
それぞれ思い思いの言葉をぶつけてくる。まあ、確かに、俺はこういうときリーダーをやりたがるのは事実だ。しかし、一方で、全体を取りまとめる人間というのがあまりに面倒なものなのもよく知ってる。なので、
「俺じゃなくて、小此木が部長なら考えるよ」
「え、わ、私?」
突然の指名にうろたえる小此木。ちなみに隣から「あ、責任押し付けようとしてる」という小さな口撃が飛んできたが、無視した。うるさいよ。自分はちゃっかり平部員におちつこうとしてる幼馴染には言われたくないわ。
気を取り直して、俺は小此木の説得を開始する。
「考えてもみろ。俺なんか人を取りまとめる役には不向きだろう。それなら、クラス委員長もやっている小此木がやるのが適任じゃないか?」
「で、でも、私はそんな人をまとめるなんて出来なくて」
「なら、部活動で練習すればいい。少人数で自信を付けていけば、クラス委員長や、生徒会長みたいな大きな役職も出来るようになるかもしれないだろう?」
「そ、それは……」
「そうやって、自信と実績を積み重ねれば、いずれは色んな人に声をかけられるようになるだろう。そして、小此木に声をかけられて、灰色だった青春に彩りが加わるようなやつが出てきたら、きっと「自分も誰かを助けよう」と思うだろう。そうやって、世代を超えて思いを受け継いでいく。その第一歩にしたらいいんだよ。間違いがあれば、俺や司がサポートするから。な?」
「思いを……受け継ぐ」
よし、刺さった、
「そう……そうね。分かったわ。それなら私が部長をやるから。それで、神木くんも入ってくれる?」
俺は、それはもうこれでもかと言わんばかりにいい笑顔で、
「もちろんだとも」
隣から再び、俺にだけ聞こえる声で「将来詐欺師になったらどうしよう……」という声が聞こえてきたが完全無視した。うるさいよ幼馴染。後、そんなめんどくさいことするか。
俺の賛同が取り付けられて安心した小此木は、先ほど司が切り分けてくれた試作のケーキを食べて、目をぱちぽちさせて「え、美味しい……」などと呟いたのち、
「あ、そ、そういえば、なんだけど……」
なんだろう。俺の方を見てもじもじしだした。何?また俺何か、
「あの、約束の件、なんだけど」
「あ、あー……」
すっかり忘れてた。そう言えば元はと言えば、小此木の身体を目当てで俺が協力したみたいなことになってるんだった。
小此木は俯いて、スカートの裾を弄りながら、
「えっと……約束を反故……にはしないんだけど。その、私にも心の準備があるから……少しだけ、待ってもらえる、かな?」
「それはまあ、いいけど……」
正直なところ、そのまま忘れてもらってもいいくらいだった。
俺からしてみればあれは、断るための口実に過ぎなかったし、実際に小此木で性欲処理をするつもりもない。
それこそ最上みたいな「いかにも遊んでます」みたいなやつだったら、ためらわなかったと思うんだけど、男性経験どころか、彼氏すらいたことがなさそうな小此木相手にそれをするのは流石に気が引ける。
まあ、俺がはぐらかしてれば、小此木もこれ幸いとなかったことにしてくれるだろう。と、いうか、そうだと信じたい。
と、まあ、そんな感じで、丸く収まろうとしていた、その時だった。
「何、約束って」
星咲だった。さっきまで会話に参加する気の欠片も感じられなかった癖に、いつの間にかこちらを……正確には小此木の方を向いている。
そんな問いかけに対して、小此木が、
「あ、えっと……ちょっと待っててくださいね?」
ん?
今こいつなんて言った?
ちょっと待ってくださいね?
それはつまり、
「おい、お」
「はい」
遅かった。
俺が止めに入る前に、小此木は星咲に件の誓約書(原本は俺が持っているので、あくまでコピーだが)を手渡してしまった。
星咲はそれを片手で持ち、最初はけだるそうに眺めていたが、途中から両手でしっかりともち、紙に顔を近づけて、隅から隅までじっくりと読み込んで、
「…………ありがとう」
静かな声で、小此木に礼を言って、誓約書(コピー)を返して立ち上がり、
「ちょっとどいてもらっていい?」
「あ、はーい」
「まさかの裏切り!?」
ることはせずに、あっさりとどいてしまった。と、いうことで、俺と星咲を遮るものは一切なくなり、
「おいコラ陰キャぼっちクソ童貞。どういうことだよアレ」
「うるさいぞ腐れマ○コ。貴様に教えてやる筋合いなどない」
「くさっ……!あのね。この間も思ったんだけど、アンタ、女性に対するデリカシーってもんは無いわけ?」
「無いわけなかろう。俺は女性に対してきちんと紳士的に対応しているぞ?た・だ・し!きちんとした人間の、大人の女ならな。お前のような類人猿の雌に対して使うデリカシーは、あいにく持ち合わせぐえっ!?」
星咲が俺をぎりぎりと締め上げる。流石にやばいと思ったのか小此木と二見が止めにかかるが、星咲は一切力を緩めずに、
「誰が類人猿だあぁ!?もう一回行ってみろよクソ童貞がよ!」
「う……るさいぞ。そもそも、童貞童貞と……言っているが……それを、証明する……手段が、どこにある……?その点、お前が処女だということはいくらでも証明がぐえぇぇええええ!?」
「や、ちょっと、流石に零くん死んじゃうって」
「星咲さん、違うの!これには訳があるの!」
やいやいと言いながら、必死に星咲を止める二人。だがそんなことよりも、今の俺は必死に首絞めに抵抗して、呼吸をすることだけだ。
つくづく思う。やっぱり面白くて、刺激的な
見ろ、この状況を。本来なら、助けた相手に感謝され、部活動を設立し、ちょっと仲良くなって終わるのが筋だろう。なんだよこれ。助けた(と、言っても半分くらいは星咲が自分で何とかしたんだけど)相手に首を絞められて殺される寸前って。
ああ、世知辛い。この世は実に退屈に満ち溢れている。やっぱり救いは天才たちによってつくられた面白い
めでたしめでたし。
「あ……おじいちゃん……」
「星咲さん。流石にやめてあげて。三途の川見えてるから。零くんのおじいちゃん、両方川向うの人だから」
訂正。
めでたくなし、めでたくなし。
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