42.走りながら答えを探そう。
そこで
「内部分裂させるってこと?」
俺はびしっと二見を指さして、
「その通り。あの三匹は遠目で見ればまとまっているように見えるが、その実一匹のボスに二匹の子分が引っ付いてるだけだ。しかも一匹は割と惰性で一緒に居る状態。この状態を崩して、三匹を仲間割れさせれば、
「えっと……でも、それってあくまでその三人?を分裂させるだけだよね?それがなんで孤立するって話になるの?」
「それはまあ、お互いがお互いのよりどころになっていただけで、クラス内の立ち位置もあの四人で完結していたものを、分裂させるんですよ。三匹が一緒なら孤立には見えないかもしれないけど、それを分割すると見事に孤立した一匹かける三の出来上がりです」
「な、なるほど……」
伊万里はなおもあまり飲み込めていない感じがする。この人、基本的に“ぴゅあ”だからな。きっと孤立した三匹にも救いの手が下されると思ってるんだろう。そして、それを彼女らがきちんと掴むとも。
これは俺の予測でしかないが、恐らくそんなことはプライドが許さないんじゃないだろうか。子分二人はともかく、親分に関しては特に。
二見が疑問を挟む、
「方法は分かったんだけど……それ、具体的にどうやるの?」
「そこなんだよな……」
そう。
今俺が出した方法はあくまで「三匹に対して具体的な働きかけが出来る」という前提条件のもとに成り立っている。更に言えば、「三匹に対して働きかけをすることが出来るような情報を持っている」という条件も付いているのだ。
一応、ざっくりとした仕掛け方は思い浮かぶ。子分二匹のうち一匹は、あまり進んで仲間に加わっているような状態には見えない。要は「ぼっちになるのは嫌だから、何とかぶら下がっている」という状態に近い、従って、彼女個人に働きかけることが出来れば、協力は得られるかもしれない、なんなら、残り二人に関する情報だって得られる可能性もあるだろう。
ただ、
「一人になるタイミングが無さそうなんだよな……」
そう。
あの三匹に共通しているのは「お互いがお互いにとっての居場所になっていること」だ。要は、つるんでいることでぼっちじゃないという状態を作り出しているのだ。俺からすればそんな愛想笑いの付き合いに意味があるのかとは思うのだが、世の中にはそれがあるだけで心が満たされる人種がいるのもまた確かだ。
そして、あの三匹はがっつりとそのタイプの人間なので、ほぼほぼ一緒に行動していて、個別に働きかけることが難しい。そうなると、
「隠善……かなぁ」
二見が、
「先生?またなんで?」
「教師の呼び出しに友達と一緒に来る奴はまあいないだろ?談話室の前までは一緒かもしれないが、中には入ってこない」
「あー……」
そう。
いつでも誰かと一緒に居る人間が、学校内で一人になる時間。それが「教師に呼び出された時」だ。まあ、実際には呼び出した教師と二人ではあるんだけど。
その教師が隠善であれば、口裏を合わせることは難しくない。後は協力してくれるかどうか、だが、仮にも担任だ。クラス内の不和を解決するとなれば、流石に力を貸してくれるだろう。
と、いうか、本来なら隠善が対応するべきことな気がするけどな。多分、大事になってこない限り動かないんだろう。アイツ、そういう面倒見の良さ、皆無っぽいからな……
今度は伊万里が、
「それでコンタクトは取れるとしても……その、働きかけ?はどうするの?三人は一緒に居たいんでしょ?分裂なんて出来るの?」
俺は割と素直に驚き、
「良い質問ですね……」
伊万里は照れて頭をかきながら、
「え?そう?いや、そんな大したことは無いと思うよ?」
まだ何も言っていない。
確かに、伊万里がした質問は的確だった。それは間違いない。
しかし、それだけだ。伊万里自身の洞察力とか、観察力とか、その他諸々を褒めたわけではない。無いのにも関わらず、目の前に座っている伊万里は「自分の描いた作品が、憧れの作家さんにべた褒めされました」みたいなテンションだ。一体どうしたら今の受け答えでこのテンションになれるのだろうか。
人間、ある程度歳を重ねていくごとに、世の中には「タテマエ」と「ホンネ」を使い分ける文化があるということに気が付きだすはずだし、段々と誉め言葉を素直には受け取らず「ありがとう。嬉しいです」という言葉と、それはそれは綺麗な作り笑いを、顔面にぺったりと貼り付けるようになっていくと思うのだが、伊万里にはそれがないらしい。
いや、まあ、俺も本音で褒めているから間違いじゃないと言えば間違いじゃないんだけど、ひとりの社会人としてこれで大丈夫なのだろうかと不安になる。俺が考えることじゃないかもしれないけど。
そんなことはさておいて、
「情報は難しいところですね……隠善がそんなところに力を貸してくれるかは分からないですし、そもそも、彼がそんな情報を持っているかも分かりません。一応、こちらの協力者ということになる子分のうちの一匹には聞きますけど……ああいうボス猿っていうのは基本的に、自分の本当に触れられたくない弱点っていうのは、子分に明かすことがないもんですから、致命的な弱点を知っているとは思えないですね」
「そ、それじゃ、やっぱり難しいんじゃ……」
「いや、そうでもないですよ」
「「え?」」
伊万里と二見がほぼ同時に反応する。ちなみに安楽城はさっきからこちらに1%も意識をくれていない。本当に我が道を行くやつだ。いや、いいんだけどね、それで。
俺は、そんな安楽城にも一応は聴こえるように、
「弱点が無いなら、会話のなかで見つければいいだけです」
そう、言い放った。
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