40.幼馴染とのいつものやりとり。

 まあ、正直やりすぎたと思う。


 きっかけは単純なものだった。小此木おこのぎの言葉を聞いた俺が「口約束じゃ信頼できない」などという言葉をポロっと言ったのが良くなかった。


 正直、俺からしてみれば、小此木に身体を要求する気は微塵も無かったし、それで引いてくれればと思っていた。


 思っていたのだが、当然ながら小此木側も引くことは無く、あれよあれよという間に誓約書を書くという流れになり、俺と小此木、二人のサインが描かれた、それはそれは重々しい文言で書かれた「力を貸す代わりに身体を差し出す」という趣旨の文書が出来ていたのだ。


 それが出来上がる間、二見ふたみはずっと反対していたし、なんなら小此木に対しても「やめたほうがいいよ。れいくん、こういうの本気にするから」と忠告はしていた気がするのだが、何故か最終的には「最後で引かなかった零くんが悪い」という論理にすり替わっていたのだ。おかしい。だって、半分くらいは小此木のごり押しだったぞ。あんな面倒な文言になったのも小此木発案だし。


 伊万里いまりは、俺から切り崩すのは無理だと判断したのか、二見に対して、


「二見ちゃん。ほら、神木かみきくんだって、そんな本気でやってないと思うから、ね?」


「そうかなぁ……」


 そう言って、俺に対して疑心暗鬼の視線を投げつける。伊万里はチャンスとばかりに、


「ね?神木くんも、本気じゃないよね?おこのぎ……さん?が本当に好きにしていいよって言ってきても、断れるよね?」


「いや、それは断らんが」


「……ふんっ」


「あああ……こら、神木くん!」


 伊万里さんが俺に対して怒りをぶつける。


 いや、確かに今のは悪かったと思うよ。このタイミングで、「そんなことはしない。あくまで俺は小此木の頼みを断るために条件を突き付けただけで、実際はいくらお願いされても、目の前で裸になられても、決して手を出さない」って言えたら丸く収まったと思うよ。


 でも、なあ?そんな出来ない約束はしたくないんだよ。そんなことをしたら嘘になっちゃうかもしれないだろう。そんなことは、特に二見にはしたくないんだよ。


 ただ、流石にこのままではまずい。


 と、言うことで。


「なあ、つかさ。冗談だって。お前は俺が、そんな時なんの躊躇もなく手が出せる人間に見えるのか?」


「それ……は、思わないけど」


「だろう?だから、ほら。話に参加してくれよ。俺は今から、星咲ほしざきをクラスに馴染ませましょう作戦をしないといけないんだよ。だけど、ほら。クラスの雰囲気なんて俺にはさっぱりだから。お前にも意見を聞きたいんだ。な?教えてくれよ」


「……私だって、そんなに真面目には行ってないよ」


 向かい側から「君たち、ホントに学生なんだよね?」というツッコミが入った気がするが華麗に無視する。良いんだよ、あんな教師のご機嫌伺いと、同調圧力に従ったふりをする演技だけが上手くなる空間なんかどうでも。


「それでも、俺よりは行ってるだろう。それに、俺では分からないことだってある。だから、ほら。話し合いに参加してくれよ」


 二見は、暫く俯き加減でこちらをうかがっていた。だが、やがて、一言、


「特製」


「うっ……分かった。奢るよ」


「なら許す」


「ははぁ~」


「え、なに今のやり取り」


 伊万里が思わず呟く。ちなみに、言葉にはしなかったが安楽城も全く理解していない様だった。


「二人でよく一緒に行くラーメン屋があるんですよ。んで、何かあった時に、お互いにそこのラーメンを奢ることで手打ちにしてるんです」


「へぇ……二見ちゃんはそれでいいわけ?」


「ま、もう長い付き合いですからね。零くんがいかにクズで正義感ゼロでプライド高くって、そのくせ肝心なところでビビりな上に、行動力が無いことはよく知ってますから」


「親しき仲にも礼儀ありって言葉を知ってるかい、幼馴染よ」


 よくもまあ、そんなにすらすらと罵倒が出てくるね。いくら心臓に毛が生えまくってる俺だってちょっとは傷つくよ?


「んで?具体的にはどうするの?さっきも言った通り、私だって、星咲さんとか、あの三人のことはよく知らないよ?」


「そうだな……」

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