50.部活動設立ってなんか青春っぽいよね。

「いやぁーよかったねぇ。あまねちゃん」


「そ、そうだね。これで一件落着、かな」


「…………」


 なんだろうこれ。なんだと思います?(疑問形)


 確かに俺は二見ふたみから「後でお店行くからね~」という連絡は貰っていたし、俺も件の試食会が無かったとしても、この席で二見を待っていただろうとは思う。従って、俺の隣に二見が座っているのは問題ない。では何が問題なのかといえば、


つかささんや、この二人は何故……?」


 そう言いつつ俺は向かい側に座っている二人を指し示す。俺の正面が小此木おこのぎで、二見の向かい側が星咲ほしざきだ。もっとも、小此木はこちらをきちんと向いているが、星咲はさっきから一向に俺たちの方に視線を向ける気配がない。っていうか顔の向きが完全に真逆。なんだ。そんなに俺と顔を合わせるのが嫌なのかよ。


 俺の疑問に対しては二見ではなく小此木が、


「えっと、ね。今日はちょっと相談というか、提案があって来たの?」


「提案、ねえ」


 正直、嫌な予感しかしない。


 だって、ねえ?発案者が小此木ですよ、それはそれは胸やけ必死の仲良しこよしプランが出てくるに決まってるじゃないですか。


 なので、俺はあらかじめ牽制するように、


「言っておくが、もっとちゃんと登校して、皆と仲良くしませんか?みたいなお誘いは断るぞ?」


「あ、大丈夫です。それは無理だって二見さんに釘を刺されたので」


「釘を刺しました」


 なんだか自慢げにする二見。何がそんなに誇らしいのかは分からない。でも偉いぞ。お前のおかげで、面倒な会話をごっそりと省くことが出来たからな。


 小此木が話を続ける。


「それで、なんだけど。神木かみきくんは、その、漫画は好き、なんだよね?」


「漫画?まあ、好きだけど、それがどうしたんだよ」


「えっと、ね。これを見て欲しいんだけど」


 そう言うと小此木は鞄から一枚の紙を取り出して、俺たちに見えやすいようにテーブルに置いて見せた。その内容は、


「「部活動設立申請用紙ぃ?」」


 幼馴染というのは妙なところが似るもので、見事に声と言い回しが被ってしまった。俺は仕切り直すようにわざとらしい咳払いをして、


「こほん……え、まさかお前、俺に部活動を設立しろってのか?」


「端的に言うと、そういうことになる、かな?」


 かな?じゃない。これはもうそういうことだろう。っていうかよく見ると、設立部員のところに名前も書いてあるし。小此木に、星咲。二見に、小路こみち


「は?小路って……アイツ?」


 これには二見が、


「そ。私が誘ったの。一緒に部活でもやらない?って」


「また随分フランクな……」


 何とも軽い話だ。小路といえば、つい最近、俺が理論で追い詰め……事実を提示したことで、反論出来ない状態に二度も追い込まれたやつだぞ。よくもまあそいつと俺を同じ部活動に入れようと思ったな。誰も反対しなかったのか?


 小此木が、


「正直、部活動自体は設立出来れば良いから、神木くんには名前を貸してもらうだけでもいいんだけど……駄目、かな?」


「いや、駄目じゃないが……そもそも何で漫画研究会なんだ?」


 そう。


 問題はそこだ。


 確かに、俺や司は漫画が好きだ。それは間違いない。あれだけのものを描いている以上星咲も好きで間違いない。だから、この三人が漫画研究会を設立するというのは分からなくもない。そこに小路が入っているのも、まあぎりぎり理解は出来る。しかし、


「なんで小此木まで入ってるんだ?」


「駄目?」


「いや、駄目ってわけではないが、そんな素振り一切見せてなかったなぁと思って」


「一応、漫画は好きなの。神木くんとかと比べると劣るかもしれないけど……」


「それはまあ、いいんだけど……なんでそんな状態で漫画研究会なんて?」


「それ、は……」


 言葉に詰まった小此木に代わって二見が、


「星咲さんと仲良くなるため、だって」


「…………はい?」


 思わず素っ頓狂な声が出る。


 二見が更に付け加える。


「ほら、あんなことあったでしょ?だから、星咲さんともっと仲良くなって、今度こそ友達になりたいんだって」


 あの騒動の後、件の三人組は綺麗に解散した。


 元々孤立気味だった星咲と小路は、不器用ながらも繋がり続け、何かをするにあたっては今、この二人で行動をしているらしい。


 子分猿の片割れこと堺田さかいだは、何を考えたのか、全く関係ないグループに所属し、今まで通りの気楽な日常を送っている。最上はともかく、星咲や小路との関係性を切る理由はなかったはずの彼女だったが、騒動を境にしれっと関係性をリセットしていたのだ。彼女に関しては俺から見ても分からないことが多く、今回のことに関しても、ひとつ見誤れば大失敗に終わっていたような気がする。いや、実際失敗しかけたんだけど。それは、まあ、いいじゃん。過ぎたことなんだからさ。


 んで、肝心のボス猿こと最上もがみは、最近余り人とつるんでいる気配がない。一応、なんかしらの部活動には入っているらしいのだが、その部員が一年A組にはいないらしい。彼女に関してもそのうち小此木が「助けてあげてほしい」みたいなお願いが来そうだが、それに関しては今度こそきっぱりと断ろうと思っている。


 手を差し伸べたいなら勝手にやってくれ。俺は面倒見のいい名教師か何かじゃないんだ。っていうか隠善いんぜんに頼れよ。アイツ一応担任だぞ。忘れてるかもしれないけどさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る