46.歪な共同戦線。
時間は数日後へと舞い戻る。
そんなこんなで、
ちなみに、
やがて、スピーカーから、向こうの会話が聞こえてくる。
『ごめん、お待たせ~』
『おっせーよお前。呼び出しなんて無視しときゃいいだろ』
『ごめんって。しょうがないでしょ。この間のこと、聞いておきたいって先生が』
そう。
今回の話題はずばり「あの日のこと」についてだ。
もっと詳しくすれば「星咲と揉めた日について、もう一度掘り下げよう」という内容。これは俺が提案した。
一応、どんな内容でも論破出来る自身はあるが、流石に女子特有の話題になってくると不利になる。そうならないように、あくまで戦う場はこちらで設定することにしたのだ。これで最上は、俺のホームグラウンドに引きずり込まれたことになる。
アイツがどれくらいの見立てと頭を持っているかは分からないが、星咲の話を完全否定しただけでも、大したことないのが分かる。確かにあれは粗削りだが、全否定するほどゴミではない。あの時出したのが件のゴミ異世界転生なら話は別だけど。
最上が、
『この間のって……めんどくせえ教師だな。大したことしないくせして、ミョーにしゃしゃり出てきやがる』
堺田が、
『アイツ、今年赴任したばかりだし、担任経験ないから焦ってんじゃないの~☆』
『あ、あはは』
愛想笑いをする小路。きっと、いつもこんな感じでこの二人にぶら下がっているのだろう。つくづく不思議な関係性だ。そんなぼっちになるのが嫌かね。いや、俺も司がいるから完全に一人じゃないと言われればそれまでなんだけどさ。
俺はマイク越しに、
「最上に、星咲の描いた話のどこが気に入らなかったか聞け」
小路がやや間をおいてから、
『えっと……最上は、さ。あれのどこが気に入らなかった?』
『あ?なにその質問。お前も気に入らなかったんじゃないのかよ?』
堺田が同調する。
『そうだよ。なになに、小路ちゃんひょっとして星咲派~?』
『そ、そういうわけじゃないけど、ちょっと気になっただけだよ』
『そうだな……』
暫く間があいた後、
『ま、説明不足だな』
『せ、説明不足……?』
「へえ」
意外だった。
正直そんな的確なコメントがボス猿ごときから出てくるとは思ってもみなかった。なんか脊髄反射で「なんとなく嫌―い」とか。そういう頭の軽そうなワードが飛び出てくるとばかり。なるほど、流石にトップに君臨するだけはあるってことね。
最上はそんな俺の感想とは全く関わりもなく、
『そうだろ。あれじゃ伝わるもんも伝わんないだろ、だからつまんないって言ったんだよ。何か悪いか?』
『い、いや、悪くは、ない、けど』
堺田が、
『どしたの?なんか今日の小路、変だよ☆』
『あ、えっと……』
おっと、不味いな。このままだと小路が言いくるめられるだけだ。俺はすかさず、
「光るものがあると思ったのか、最上に聞け」
『え、えっと……でも、光るものは感じた……ってこと?』
マイク越しにため息が聞こえる。最上のものだろうか。
『光るものなぁ……まあ、才能無しのどへったくそではないんじゃねえの?だけど、それだけだ。私はな、面白いのを描けって言ったんだよ。粗削りの原石として片鱗見せろっていったんじゃねえの。だから、そんなもんなんの意味もねえだろ。なんでそんなこと聞くんだよ』
またしても堺田が、
『そそ。そんな下らない話、やめよ☆』
『く、下らなくは……』
その時だった。
『下らないっていうか、意味ないんだよ。いいか、小路。物事はきちんと分かりやすく伝えるべきなの。星咲が色んなこと知ってるとか意味なくて。私や、堺田が理解しやすいように説明するべきなの。頭いいなら出来んだろ』
自分でも分かっていた。今回はあくまでアシストでしかない。だから、俺自身の感情なんて排するべきだ。あくまで今回の目的は、小路が最上をを論破すること。最上よりも、小路の方が優れていると見せつけることを目指すべきだ。
そんなことは、分かっていたはず、なのだ。
「本当の馬鹿というのは説明されても理解する能力がない。それに対しても理解できるように説明しろというのは馬鹿である証拠…………と、いえ」
『は、はああああ?』
失敗だ。
小路が最上と堺田に対して以外の反応をしている時点で違和感しかない。そして、こういうとき、最上のような「ボス猿」は、異常なまでに勘が良い。
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