幕間Ⅰ

主人公になれるやつと、なれないやつ。

 昔から、勧善懲悪なシナリオが好きじゃなかった。


 小さい頃は戦隊ものや、ヒーローもの。年齢が上がれば少年漫画。世の男の子が「カッコいい」と思ったり、「面白い」と感じるものになんら興味がわかなかった。


 あんなものの一体何が楽しいんだろう。だって、あんなものテンプレートじゃないか、戦隊ものやヒーローものなら、悪の怪人が悪さをして、それを正義の味方が対峙する。少年漫画だったら、何でもない主人公が努力して、仲間と共に悪を倒す。大体そんな感じ。


 ものによってちょっとした枝葉が付け足されることはあるし、なんだったら亜種の亜種みたいな作品はあるけど、基本的な雰囲気は全部一緒。そこには必ず「正義」があって「悪」がある。


 だけど、俺は最初から分かっていた。


 そんな分かりやすいものは創作の中にしか存在しない。


 俺らが暮らしている世界に存在するのは「正義っぽいやつ」や「なんだかすごいっぽいやつ」を褒めたたえたる馬鹿や、その空気感を壊す人間を「和を乱す」とか言って攻撃する言論弾圧主義者ばかり。


 挙句の果てにはプロパガンダで作り上げられた偽物の正義を信じ、道徳の教科書から出てきたような思想で、実際にやっているのは「正義」でも何でもないなんて酷い例だって世の中には嫌って程転がってる。


 この世界は、勧善懲悪なんかじゃないし、少年漫画でもない。


 悪は正々堂々勝負を挑まない。自らが正義の味方であるという世論を作り上げ、何も考えずに共感だけを大事にする衆愚を扇動し、裏でほくそ笑むのが本当の悪だ。


 努力は何も救わない。どれだけの時間を積み重ねようと、苦しみに耐えようと、それをあざ笑うかのようにあっさりと超えていく天才は確かに存在する。そして、その天才こそが世界を救えるんだ。凡人は、世界を救わない。


 だから俺は、勧善懲悪なシナリオが嫌いだ。


 でも、それを信じて、正義面をして人に迷惑しかかけない凡人はもっと嫌いだ。

 だけど、凡人は数がいる。数がいるのを良いことに生存権だけは主張する。そうして、馬鹿の馬鹿による馬鹿の為の世界の完成だ。その先に待っているのが滅亡であることには、きっと気が付かない。


 つかさは、俺に書けという。


 けれどな、司。それはお前が俺という人間に対して耐性があるから言えるんだ。世の人間は未だに、「何も出来なさそうだけど、努力だけは積み上げてきた、一見自分と同じに見えるけど、その実大違いの主人公」を自分だと思い込んで勘違いしたいんだよ。そんなところに俺がカッコいいと思うやつを主人公にして放り込んでみろ?どうなるかなんて目に見えてるだろ。


 俺の好きなものは刺激的で面白い物語シナリオであって、凡庸で退屈な現実リアルじゃない。


 だからな、二見。俺は……

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