28.寄らばボス猿の陰
隣でじっと成り行きを見守っていた
「
「ん。いいぞ」
俺は手元の原稿を二見に横流しする。隣で「あっ」みたいな声が聞こえた気がするが、気にしないことにする。別に良いだろ。コメント自体は二見の方がやんわりマイルドなことが多いわけだし。
と、まあ、そんな一連の流れを見ていたボス猿が、
「ねえ、アンタ。それ、面白いってマジ?」
「あん?」
声をかけられて振り向く。すると、三匹が揃いも揃って「何こいつ気持ち悪い」みたいな顔をしていた。うーわ、めんどくせえ……
子分猿A(今命名した)が、
「アンタ、馬鹿なんじゃない。そんなの面白いって」
うーわ、うっざ。馬鹿に馬鹿にされることほど腹立たしいものは無い。
仕方ない。大変面倒だが、反撃するとしよう。
「ほう。俺が馬鹿と?」
「あ……そ、そうよ!聞こえなかったの?」
見つけた。
こいつ、ボス猿の陰に隠れてるから分かりにくいけど、基本的にビビりだ。それこそ、ちょっと強めに威圧すればすぐにひるむくらいの。
俺は一歩歩み進め、子分猿Aの近くに行き、
「別に。聞こえてるさ。むしろ、聞こえてるからこそ聞き直したんだよ。俺が馬鹿と。くっくっくっくっ……なかなか面白いことをおっしゃる。んじゃ聞くけど、当然アンタも入試を受けてここに立ってるわけだろ?ってことは、模試なんかも受けてるってわけだ。聞こうじゃないか。お前の、最終的な、合格判定は何だっんだ?どこの模試でもいいぞ。一番いい奴を提示てくれないか?」
子分猿Aは視線を背け、
「べ、別に今そんなこと関係無いでしょ」
俺はその先にわざわざ動き、目を合わせて、
「そうだな。関係ないな。でも、ちょっとした目安にはなるはずだ。ちなみに俺はどこの判定でも最高ランク以外にはなったことが無かったが、まさか俺を馬鹿扱いするのに、最高ランク以外ってことは無いよな?そんなことでは頭の良さは決まらないかもしれないけど、それなりに良い判定、貰ってたんだろ?俺を馬鹿にするってことは」
「そ、そうよ。っていうか、そんなこと、今関係ないじゃない!」
俺は一旦距離を取り、
「おっと、失礼。ちょっと気になったからな」
その一連の流れの内に、他二匹がやじを飛ばしていたし、なんならちょっとした観衆が出来ていたが気にすることは無い。むしろ、証明する人間がいた方が良いくらいだ。
俺は再び語り始める。
「んじゃ、関係のある話をしよう。お前は、
子分猿Aはやや突っかかりながらも、
「そ、そうよ!悪い?」
「別に悪いとは言っていない……いや、悪いには悪いか。お前の審美眼が、それはそれは哀れなほどに悪いと言える」
「な、なんでそんなことが言えるのよ!」
「じゃあ聞こうじゃないか。お前はあの話の、どこが面白くないと思ったんだ?」
「そ、それは……」
俺は再び視線を合わせ、
「どうした?面白くない。面白いと思う人間は馬鹿だ、とまで言って見せたのだから、根拠の一つや二つくらいはあるだろう?俺だって鬼畜じゃない。お前が納得のいく論理を提示するのであれば、翻意することもあるかもしれないぞ?聞いてやるから、話してみろ?ん?」
「それは……えっと……」
口ごもってしまう子分猿A。
ま、そうだろうな。
理由なんて無いんだよ。話の内容がやや知識のいる作品で、登場人物の出し方が下手となれば、答えは簡単だ。よく分からないからつまらない。これ以外にない。
自分が分かるから面白い。自分が分からないからつまらない。自らの学の無さ、知識の無さ、思考能力の欠如は完全に棚に上げ、「自分の審美眼は間違っていないぞ」という世界を構築する。それがこいつらのやり方。単純で、だからこそ、淡々と理屈で詰められると反論が出来ない。
しかも、この子分猿Aは、元々割と論理的に考える方の人間だ。要は「論理的には考えるんだけど、全然分からない」という質。だから、論理的に、声も荒げず、淡々と詰めれば、それに対して必死で論理を構築して返そうとする。
隣にいる子分猿Bみたいに「キモい」とかそういった単語に逃げることをしない。しかし、だからこそ、こうやって追い詰めていけば必ずどこかで論理的に行き詰る。
そんな子分を助けようと思ったのか、
「分かりにくいから、だよ」
「ほう」
ボス猿が割って入る。
「読者にちゃんと伝わり切らない話なんてのは、面白くない。それでいいだろう」
「そ、そう。そういうこと」
うーわめんどくせえ。親分に庇われて回復しちゃったよ。最初に叩くべき、こっちだったわ。
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