27.「キモい」で逃げる有象無象。

 すると三匹が揃いも揃って、それはそれは嫌な顔と、露骨に嫌悪感を示す反応をする。


「あ、なにお前」


「部外者はちょっと引っ込んでてくれるー?」


「てか、うちのクラスにこんなやついたっけ?」


 おお、おお。なんかどっかで聞いたような反応。面白いな。シナリオと一緒で、テンプレートなモブは実に分かりやすい。


 と、ひとり感心していると、


「ちょっと、アンタは関係無いでしょ?どいてくれる?」


「え、俺こっちからも石投げられるの?」


 何故か星咲ほしざきからも邪魔者扱いされていた。いや、君がその反応はおかしいでしょ。明らかに三対一の劣勢で困ってたのに、仮にも知り合い(いくら嫌いな相手とはいえ)が来たんだから、もう少し好感度のある反応してくれても良くない?


 そんな星咲に、俺の後からついてきた二見ふたみが、


「星咲さん。これでも一応、れいくんは星咲さんを助けようと思ってきてるんだから、もう少しやんわりと対応してあげて。嫌かもしれないけど」


「なんか一言余計じゃない?」


 とはいえ、流石に(相対的に)好感度の高い相手のお願いだ。星咲は先ほどよりは俺に対する敵対心を抑え、


「……助けに来たっていうけど、別に私、困ってないから」


「そ。んじゃおせっかいだったってことか。悪かったな、邪魔して。先に教室行ってるぞ。お前らも遅れるんじゃないぞ」


 俺はそう言って立ち去


「待って」


 れなかった。二見ががっちりと俺の腕を掴んできた。なんだよ、要らないって言ってるんだから良いだろ?


 そんな一連のやり取りに飽きたのか、三匹が口々に、


「あのー、邪魔なんですけど」


「夫婦漫才なら他所でやれよ」


「つかキモい」


 お、きたな。伝家の宝刀「キモい」。論理的に否定する言葉は思いつかないけど、取り合えず不快感はあるから、それを言葉として出力する際に使われる言葉ナンバーワン(神木零調べ)だ。これが出てきたってことは既に使える語彙は尽きたと言っていい。なんて貧弱な語彙力なんだろう。一応試験に受かってこの高校入ってるんだよな、こいつら。


 俺はそんな有象無象を完全無視して、


「んで。またなんでもめてたんだよ。もしかしてあの、どーしょーもない漫画を見せたのか?もしそれなら俺はあっち側に付くが……」


「ち、違う。あれは見せてない」


 背後で三匹が「何アレって」みたいなことをわめいていたが華麗にスルーし、


「んじゃなんで揉めてるんだよ」


「そ、それは……」


 口ごもる星咲の代わりに、三匹の内の一匹が、


「簡単だよ、そいつ、意味わかんない漫画描いてきたから」


「ほう。それはどれだ」


「これこれ」


「あっ」


 星咲が止めようとするが、俺はそれを完全に無視して、ボス猿(仮)から漫画の原稿と思わしき紙束を受け取る。


「ふむ……」


 俺は早速それに目を通す。その間、三匹と一人がキーキーとうるさかったが完全に無視して作品を読み続ける。


 作品の内容は、先日俺が目を通した異世界転生ものとは大分異なるものだった。ややSFが入っており、専門的な用語も少し噛ませながら話が進む本格的なものだ。イラストも、異世界転生よりかなり硬派な感じになっていた。


 どうやら星咲は、シナリオに対して、ある程度画風を変更しているらしい。ま、それでも根本的な癖みたいなものは抜けてないから、別人とするのは難しいだろうけどな。それでも、作品ごとにこれだけ変えられたら大したもんだ。それに、


「星咲」


 突然話しかけられた星咲はびくっとなり、


「な、なによ。また文句でもあるってわけ?」


「そうだな、文句が無いわけじゃない」


「あんたね……」


 星咲が俺に食って掛かろうと一歩踏み出そうとするが、


「無いわけじゃないが、全体としては面白いと思うぞ」


「今度こそ…………へ?」


 思いとどまる。


 そう。


 星咲の描いた漫画は、読み切りとしてそれなりに面白く、二、三口出しをしたいところがあるにはあるのだが、それはそれとして面白い、面白くないの二択で言えば確実に面白い方に分類されるレベルのものだった。


 SF色が強く、なんだったら、それなりにタイムマシンなどについての基礎的知識が無いと分かりにくい側面があるのもまた事実で、それ以外でも登場人物がいきなり出てき過ぎていて、それを整理しながらとなると、読むのにかなり時間がかかるのも問題で、当然そのあたりに手直しを入れる必要性はあるだろうが、それ以外、設定などの根幹的な部分に関してはセンスを感じるところが多く、俺としては「面白い」とはっきり断言出来るレベルのものだったのだ。全く、初めからこれを出しておけよ……

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