Ⅲ.
19.変人と変人は引かれあうって話。
「それは
「……神木が悪い」
「そう、
「わお四面楚歌」
小一時間後。店のエプロンを外し、完全に休憩モードとなった
「と、いうか、なんでそこまで突っかかったの?神木くんってそんな印象ないけどなぁ」
伊万里
これでも一応、作家安楽城帝の編集者である。一応、というのは彼女がしている作業が殆ど、原稿を届けることだけだからである。
作品に対するアドバイスなんかは一切無いし、それ以外の私生活に関しても伊万里は伊万里でだらしがないらしく、手伝えないとのことで、正直なんの役に立っているのかが不思議なところがある。
編集者としても新人に近く、最初に抜擢されたのが、安楽城という実に手ごわい相手で、その苦労を喫茶二見で、店長──二見の父親である二見
正直良いのかなと思わなくもないのだが、これがこの関係性、伊万里の上司からも半ば黙認状態の様で、ちょっとした給料みたいなものまで貰っているという不思議な状態なのだ。
なんでも明に、昔の伝手があるらしく、そのあたりを裏で手を回してくれている……らしい。割と近い位置にいて、接する時間も俺の人生の中でトップ10に入るレベルの明だが、その娘である二見司以上に知らないことが多いのが現状だった。なんだったら母親も知らないことの方が多いし。あれ?俺の周り、よく分からない人間が多い、多くない?
と、まあ仕事の方ではからっきしな伊万里だが、こと才能を見極める嗅覚みたいなものに関してはかなりのもので、何らかの大賞を取ったわけでもない安楽城がいまこうして漫画家として立派にやっていけているのは、他でもない、伊万里が安楽城のことを劇押ししたからだと聞いている。
その方法がどういうものだったのかは分からないし、それがどこまで反映されたのかも定かではない。ただ、結果として安楽城はデビューし、その編集を伊万里が任された、というのは事実なのだそうだ。まあ、だからといって編集として適格かと言われると疑問符しかないけど。
見た目はと言えば全体的に「垢ぬけなさ」に包まれている印象だが、概ねそれを支えているのが、一体どこで買ったのそれと聞きたくなる(というか実際に聞いたことがある)黒縁の丸眼鏡である。それこそアニメや漫画のテンプレガリ勉野郎しかつかってないんじゃないのっていうレベルの眼鏡を愛用していて、それが概ね「垢ぬけなさ」を醸し出す主要因になっているような気がする。
まあ、それ以前に、髪がぼっさぼさだったりすることが多かったり、着ている服がいつも同じ(恐らく同じやつを何着も持ってる)上に地味とかいろいろな理由があるとは思うんだけど。
眼鏡越しに見ている分には顔立ちは整っているし、服の上からでも分かるくらい胸も大きいから、それこそ、綺麗に着飾ればあっさりモテそうな気がするんだけど、どうなんだろう。まあ、その「着飾れば」の前提条件をこなすのが難しそうだけど。作家も作家なら、担当編集も担当編集である。
「そりゃ、伊万里さんには強く当たる理由は無いですからね」
「そ、そうなの?」
何とも不思議そうな顔をする。なに?強く当たってほしいの?
二見が隣から、
「伊万里さん。覚えておくといいですよ。彼、人によって顔を使い分けてますから」
「えっ、そうなの?」
「おい、人聞きの悪いことを言うな」
二見が不満げに、
「だってそうじゃない。零くん、伊万里さんとか大ちゃんにはミョーに優しいし。そのやさしさの1%でも、星咲さんに分けてあげなよ」
「(笑)」
「はいそこ、表情だけで「あいつに?ないない。そんなことするくらいなら死んだ方がまし」っていう内容を表現しない」
「と、いいつつも、その内容をしっかりと翻訳してくれる二見
「めでたくないめでたくない」
「そう言えばこの間知ったんですけど、牛って鼻のしわが一頭ごとに微妙に違うんですって。知ってました?伊万里さん?」
「さらっと話題を変えんじゃないよ」
「え、そうなの?知らなかったなぁ」
全然騙されてくれない二見と、あっさり騙される伊万里。まあぶっちゃけ、このあたりなのよね、伊万里に対して強く当たらないのって。
この人。それこそ、真実の中に嘘を混ぜ込んでいけば全部信じちゃいそうだし、なんだったら、最終的に「俺とセフ○になっておけば開運間違いなし」みたいなよく分からない内容も、順序だてていけばマジで信じ込ませられそうな危うさがあるんだもん。逆に心配になるんだよ。まあ、それよりも何よりも、
「まあでも、もし
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